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2009-02-12 10:32
中国海軍の増強を懸念する
細川 大輔
大阪経済大学教授
中国政府は1月20日、国防白書『2008年の中国の国防』を発表した。その内容で注目される点は、全体に平和協調路線を打ち出すなかでも、中国が遠洋での海軍の作戦行動能力を向上させる意図を明らかにしたことである。これまで人民解放軍の近代化は、台湾奪還という目標に向けられており、より多くの潜水艦とミサイル装備に注力してきた。今後は、空母の開発や戦略原子力潜水艦の配備などで、拡大する中国の国際的な権益を守るとともに、国際社会での発言力と影響力を強化することになろう。その際、中国が念頭に置いているのは南シナ海である。
中国は昨年12月、初の国産空母の建造に着手することを事実上認めた。報道によると、空母は中型2隻で早ければ2015年にも完成し、南シナ海を守備範囲とする南海艦隊に所属させる計画といわれる。一方、南海艦隊の司令部は広東省湛江市にあるが、海南島南部の三亜市でも新たに大規模な海軍基地が建設されている。攻撃型原子力潜水艦の停泊や、航空機の地下格納庫があることも分かっている。最近派遣されたソマリア沖への艦隊は、ここ三亜市の海軍基地から出発したものである。
中国海軍の増強は、南沙諸島および西沙諸島の領有権をめぐり中国との問題を抱えるベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイをはじめとする東南アジア諸国の懸念をより高めることになる。空母や攻撃型原潜が泳ぎ回ることによって、中国は領有権をより強力に主張できるようになり、南シナ海は事実上中国の内海となってしまうからである。こうした動きとは裏腹に、中国は2006年ごろから、南シナ海に面するASEAN諸国と汎北部湾(トンキン湾)経済協力構想を進展させている。ベトナムと国境を接する広西チワン族自治区を中心に、海洋輸送の強みを活かして南シナ海の資源を共同開発し、同地域に臨海工業地帯を建設しようとの構想である。
すなわち、中国・ASEAN自由貿易協定を実施するプラットフォーム創設の構想である。大メコン河開発計画を中国のASEANとの「陸の経済協力」とするならば、これは中国のASEANとの「海の経済協力」である。中国は、持続的経済発展のための資源を確保し、また国際社会での政治的影響力を高めるために、海軍を増強させている。そのなかで生じるASEAN諸国との摩擦は、経済的ウィン・ウィン関係を構築することにより、緩和しようとしている。中国の硬軟両様の対アジア外交から今後も目が離せない。
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