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2009-01-13 19:50
ワークシェアリングの前提は仕事の洗い直し
入山 映
サイバー大学客員教授・(財)国際開発センター研究顧問
労働力需要に波動、例えば季節波動があるというのは、何も今日昨日発生した事態ではない。ピーク時労働力を確保するために臨時雇用、最近の言葉でいえば非正規労働者を雇用するというのも、昔からある対応策だ。年賀はがきの処理を考えてみれば明らかだろう。他方で、労働者保護のために経営側の解雇権の濫用を防ごうというのも、これまたさして新しい発想ではない。だから問題は、例によって両者をどう調和させるか、という点にある。これを労働の供給過剰(あるいは同じことだが過少需要)という観点から見れば、事態への対応策としては、誰が考えても二つの考え方しかない。一つは労働総コストを増加させないために、雇用水準を維持して賃金をカットするであり、二つ目は賃金水準を維持する代わりに、雇用水準を調整して、労働力カットで対応するである。
最低賃金が制度化されている国々では、一番目の対応策には限界があるから、オーバーフローした部分は様々なセーフティー・ネットで対応する。この点は二番目の対応でも同じことで、失業した労働者に対する施策は、両者ともに変わりないことになる。両方の対応を調和させようというのが、いわゆるワークシェアリングで、これは三方一両損みたいに、雇用量確保のために賃金水準を低下させ、それが労働者丸かぶりにならないために、経営・そして公的セクターにも応分の負担を求める、というものだ。
経営に応分の負担を求めるといっても、古典的な経営者の「搾取」分を減らせ、あるいは社長の給料を下げろ(もちろんそれはそれで結構だが)、といったゼロサムの話ではなく、後に触れるようなワークシフトの転換に向けての知恵を出すとか、労働コスト吸収の方策を考えるという意味だし、公的セクターの負担というのも、もとをただせば国民の税金の話なのだから、単なる税金分捕り合戦という意味ではない。むしろセーフティー・ネットの機動的運用とか、労働力需給の質的なミスマッチに対する対策という意味合いが強い。もちろん(オーバータイムの廃止とか、短時間労働シフトの導入といったものとは別に)新規雇用の創設という王道も存在するが、タイム・ラグを考えればほぼ上記で尽きている、と考えてよいだろう。
いままで1人でやっていた仕事を1.1人とか1.2人でこなす、ということを意味するから、現実には仕事を「そんな風に」組み直すのは困難だ。日本の会社においては(なぜかは知らないが)特に困難だ、といった論をなす経営者や評論家が多い。これはワークシェアそのものをやりたくない、といっているに等しい。賃金水準の低下(賃上げの見送りを含む)に反対という労働側の意見も同じことだ。今までの仕事を今まで通りにやることを前提にしたワークシェアというのは、(不可能とはいわないまでも)大変困難なことはいうまでもない。だからワークシェアに取り組むということは、仕事のやり方を考え直す、洗い直してみるということが、自明の前提だ。それと同時に、特に公的セクターの寄与について、需給バランスの調整やセーフティー・ネットの運用に、もっと市民社会の力を借りるという発想も、是非必要になる。2兆円のバラ撒きをこちらの方に舵取りを変えれば、出来ることは山ほどあろうというものだ。
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