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2008-04-10 11:15

アジアこそ文化的多様性のダイナミズムを活かせ

安江則子  立命館大学教授
 文化関連の貿易が世界の貿易総額に占める割合は年々高まっている。米国の最大の輸出産業は実は自動車でも航空機でもなく、文化産業だという数字もある。ユネスコの統計によると、文化産業の輸出総額は、地域圏で見ればEUが依然として世界一で、全体の約50%を占めるが、その割合は年々減少している。かわってこの分野で大きな存在感を示すようになったのが、東アジアである。インドは輸出する映画の本数では米国を抜いて世界一である。ビデオゲームなどのオーディオビジュアル・メディアの輸出額では中国が世界一になった。逆に輸入額で見ると、先進国が上位を占め、東アジアはまだ低い数字に留まっているが、潜在的な巨大市場である。

 危機感を募らせるEUは、映画やテレビ番組を中心とするオーディオビジュアル関連の新たな政策、MEDIA2007を打ち出した。EUのオーディオビジュアル政策は、商業的価値と文化的アイデンティティの交錯する領域であり、自由化を進める立場と文化的多元性を重んじる立場との間で綱引きがあった。現在ではグローバルな競争に晒される欧州映画について、上映の割当制とともに、域内の小規模の文化集団に対して、例えば映画制作から配給・宣伝に至るまで支援するなど、積極的な措置もとられている。メディア産業への公的支援は、表現の自由やメディアの独立性との関係で微妙な点もある。けれどもメディア・コングロマリットにより競争激化するなかで、欧州文化の保護は、各国市民の相互理解や欧州公共圏の確立にとって大切である、と認識されるようになった。

 アジアの代名詞である「多様性のダイナミズム」のメリットは、単に賃金格差を利用した経営的な次元に留まらない。アジア文化の多様性を、新しい技術と融合させた文化的な創造性は、市場的価値の創出につながる。アジアにおける少数民族の自尊心を保護することにも貢献しよう。知的財産権の保護や有害メディアからの青少年保護の措置を共同で講じるとともに、アジア社会の和解と連帯感をもたらす新たな創造性をより強く支援していくべきであろう。
 
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