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2008-04-01 07:49
中国のいびつな資本流入対策
村瀬 哲司
京都大学教授
中国では、金融当局の直接監督下にある銀行(金融セクター)向けの外資流入規制は異常に厳しく、同時に看過できない副作用をもたらしている。他方、事業会社など実体経済部門(非金融セクター)は、金融・通貨当局の管轄外ということもあって、資本流入阻止を目的とする為替管理が実効性をあげているかは疑問である。流入経路の一例として、関連会社を通じて割高の輸出価格と割安の輸入価格を組み合わせた貿易を繰り返すという手法、あるいは直接投資事業会社による親子ローンの取り入れなどが考えられる。また、政府部門のうち治外法権的な組織によるしり抜け行為なども噂される。
昨年3月国家外貨管理局は、国内銀行に対して海外からの外貨調達(短期対外債務)を、2008年3月末までに06年の上限の30%(中資系銀行)ないし60%(外銀)に、段階的に削減することを指示した。この措置は、事実上国内の銀行に対し、海外からのドル資金借入れを停止させるだけでなく、返済を強要するものである。中国では個人・企業ともに外貨(ドル)預金の保有が認められているが、人民元先高傾向のもとで外貨預金残高は、2007年末1,599億ドルと前年末に比べ0.9%減少した(中国貨幣政策執行報告07年第四季度)。他方、人民元貸出抑制の窓口指導の余波もあってドル貸出に対する資金需要は旺盛で、07年末の外貨貸出残高は2,198億ドルと前年末比+511億ドル、+30.2%増加した(同)。したがって、中国国内ではドル資金供給が需要を上回る事態が発生した。
これらを背景に国内外貨資金市場が一躍脚光を浴びることになり、銀行間でドル資金は、国際的な金利水準であるLibor に大幅なスプレッドを上乗せして、貸し借りされるようになった。このLibor+αのαはチャイナ・プレミアムと呼ばれ、2008年に入ってからもプレミアムは3カ月もので4%、6カ月もので5%に達している。この結果、人民元の対ドル先物相場はLibor+α(国内ドル金利)を基準に決まるようになり、ドルの先安・人民元の先高感が先物相場においてそのまま反映されることになった(ドル・ディスカウント幅拡大)。また、為替スワップによって、人民元預金は豊富だが、ドル資金不足の中資系銀行は、Libor+4~5%の高利でドル資金を調達し、逆に相対的にドルの調達枠が大きく、人民元資金が不足する外資系銀行は、実質0%で人民元資金を調達できるという特異な状況が現出した。
金融セクターに的を絞った外貨流入規制は、このように国内ドル資金の枯渇と異常な金利展開という副作用をもたらしており、いつまでも継続できるとは考えられない。人民元の管理じり高相場と外資流入抑制を目指す中にあって、昨年に出された国家外貨管理局指示の期限が3月末に到来した後、金融当局がどのような施策を打ち出すかが注目される。
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