ホーム
新規
投稿
検索
検索
お問合わせ
2008-02-21 16:33
超国家的結合としてのEUとASEANの比較
河東哲夫
Japan-World Trends代表
この1月にEUを見てきた。EUと言うと、戦争の元となりやすい国民国家を止揚した超国家的存在と思われているが、果たしてそうなのかどうかを見に行ったのだ。結論は、「多民族化こそしつつあるが主権国家こそ、現在でも欧州の主要なプレイヤーであり、欧州委員会は『数あるプレイヤーの中の一人』でしかない」、ということである。加盟国はある時は主権国家として振る舞い、都合が悪くなるとEUを前面に立てて行動する。EUは、超国民国家とか国民国家の運命とかのイデオロギーの範疇で考えるより、欧州委と各加盟国政治家・官僚の間のせめぎ合い、化かし合い、利用し合いの物語として捉えた方が、実像に近い。欧州委員会が実行する政策、欧州議会で採択される法律は、いずれもEU加盟国の関係諸省庁間でコンセンサスが達成されなければ日の目を見ることはないのである。
我々はこれまで、ヨーロッパよりはるかに多様性の強いアジアではEUのような超国家的結合はなかなか実現できないものだと他者から言われ、自分達でもそう思い込んできた。少人数から成るASEANの事務局は、数万人を抱える欧州委員会の足元にも及ばない。だが、EUがドイツを内部に抱え込むことでこれを安定勢力に変えたと同じく、ASEANもベトナムを抱え込むことで地域の安定を達成しているのだ。事務局の数は小さくとも、ASEANの傘の下で開かれている加盟国政府諸省庁間の会議は年間数百件に上っている。現在の世界は欧州も含めて、主権民族国家から主権多民族国家へと転化しつつあり、その過程で多数の問題が発生しつつあるが、ASEANの諸国は建国当初から多民族であったのだ。ASEANは欧州、EUに対してマゾヒズム的な劣等感を持つ必要はない。小異を捨てて大同につき、一つの声で発言すれば、大きな効果を発揮できる。
>>>この投稿にコメントする
修正する
投稿履歴
一覧へ戻る
総論稿数:4661本
東アジア共同体評議会