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2008-01-28 12:23
北東アジア非核兵器地帯の実現に向けて
滝田賢治
中央大学教授
冷戦期には核抑止論の中心的主唱者であったH.キッシンジャーは、G.シュルツ、W.ペリー、サム・ナンと連名で1年前の2007年1月4日、『ウォール・ストリート・ジャーナル』に「核のない世界」という論文を発表し、核の廃絶に向けアメリカは今こそ世界をリードすべきであると訴えた。冷戦期に有効であった核抑止はソ連崩壊で意味がなくなっているのに、北朝鮮やイランが核開発プログラムを推進し、非国家主体のテロ集団が核兵器を入手する可能性が高まっているので、世界は極めて危険な状態に直面していると警告を発した。戦略核や戦術核ばかりかテロ集団が小型核によって引き起こす地表爆発と高高度爆発の危険性が現実味を帯びてきた、との警告も専門家から発せられるようになっている。
冷戦終結後、核の拡散により抑止が機能しなくなった現在、北朝鮮による核の無能力化とアメリカによる北朝鮮のテロ支援国家指定解除の綱引きが行われ、米朝交渉は膠着状態に陥っている。しかし日本政府はこれと併行して韓国政府と協力し(藩基文・国連事務総長の力も利用し)、全て核保有国である安保理常任理事国(P5)の米ロ中に今まで以上に働きかけ、北東アジアに非核兵器地帯を作る努力を強化すべきである。世界にはラテンアメリカ/カリブ、南太平洋、東南アジア、アフリカ、中央アジアの5つに同地帯が設定されているが、中東、南アジアとともに東北アジアには未だ具体的な動きは出てきていない。北朝鮮の核問題が解決してから非核兵器地帯を設定しようとするのではなく、逆に非核兵器地帯の実現を目指すプロセスが北朝鮮の核問題解決へのソフトな圧力になるはずである。
昨年11月の投稿(本欄2007年11月13日付け投稿433号拙稿)で豆満江開発の推進が北朝鮮問題解決の「補助線」になると主張したが、非核兵器地帯の設定努力も同様の効果を持つはずである。「二つの『急がば回れ』政策」である。豆満江開発は経済的に見れば「比較優位」ではないであろうが、安全保障政策としてみれば実に安上がりな政策である。この地域における非核地帯の設定は、東アジア地域全体の安全の強化につながることは明らかであるので、すでにバンコク条約(東南アジア非核地帯条約)により非核地帯を設定しているASEAN諸国も東アジアの一員として側面から協力するであろうし、日本政府は韓国政府とともにその働きかけを強めるべきである。
そもそも拒否権をもつ国連安保理常任理事国5カ国が膨大な核兵器システムを保有しつつ、NPTをはじめとする条約や諸規範を盾に、他国の核開発を押さえ込もうとすること自体が、現代国際政治の最大のアイロニーである。テロ支援や「貧者の核兵器」である生物化学兵器を利用する国家により、核保有国であるP5諸国が脅威を受ける「超大国のジレンマ」は「安全保障のジレンマ」の最たるものであろう。このアイロニーとジレンマから抜け出すためには、P5が主導して非核へのプロセスを加速することであるし、東アジアでは米ロ中が非核兵器地帯設定に努力することが不可欠である。それは北朝鮮の核問題解決の強力な梃子(leverage)になり、東アジア地域の国際協力レジーム形成に貢献するであろう。
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