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2007-12-24 12:09
東アジアにとっての2つの通貨バスケット
小川英治
一橋大学大学院教授
去る12月20~21日の両日にドイツのボンにあるドイツ開発研究所(DIE)で開催された国際コンファレンス(メインテーマ:Regional Economic Integration Beyond Europe)に呼ばれて、“Currency Baskets for East Asia”というタイトルの付いた論文を報告した。そのタイトルが“A Currency Basket”ではなく、“Currency Baskets”と複数形にしたのには、理由がある。その理由とは、現在、東アジアにおいて、2つの通貨バスケットに関する概念が同時に議論されていて、その議論を整理したかったからである。2つの通貨バスケットとは、1つは東アジア域外の通貨をバスケットとするものであり、もう1つは東アジア域内の通貨をバスケットとするものである。これらの通貨バスケットに関する概念は、共通して、自国通貨の価値をこれらの通貨バスケットのどちらかに対して安定化させることを目的としている。
域外通貨のバスケットに対して自国通貨の価値を安定化させることは、実際に東アジアのいくつかの国で実施されている。その代表格は、シンガポールであろう。また、2005年7月21日に中国政府がドルペッグ制度から通貨バスケットを参照とした管理フロート制度へ為替相場政策を変更したが、その通貨バスケットは米ドルやユーロや日本円などから構成される旨発表されている(実際には、依然として米ドルのみをターゲットとした為替相場政策が続けられている)。なお、これらの国における為替相場政策は、必ずしも域外通貨のみのバスケットではなく、主要貿易相手国通貨のバスケットとしている(主要貿易相手国はアメリカであったり、ユーロ圏であったりしている)。
一方、域内通貨のバスケットは、ユーロ導入前にEUにおいて採用されていた欧州通貨制度(EMS)の下での欧州通貨単位ECUに倣って、地域共通計算単位として導入の可能性が検討されている、域内通貨の加重平均値としての地域通貨単位RMUあるいはアジア通貨単位ACUである。これらは、チェンマイ・イニシアティブのフレームワークの中のサーベイランス・プロセスにおいて、東アジア通貨間の為替相場の安定化を図るためにサーベイランスの指標として利用されるとともに、アジア債券市場の育成の中でアジア債券の表示通貨としても考えられている。
これらの2つの通貨バスケットについて様々な議論を行うことは重要なことであるが、同時に、それらの議論のために両者の関係を整理しておくことも必要である。その1つの考え方として、域外通貨のバスケットを参照した為替相場政策を実施すると同時に、域内の為替相場の安定化のためにRMUとの為替相場の安定化にも注意を向けることである。域外通貨バスケットの共通化が図られれば、それは東アジア各国通貨がRMUに対して共通して安定化することと同値となる。その段階に達すれば、その後は、ECUをベースとしたEMSのように、RMUをベースとした東アジア通貨制度へ向かうことができるだろう。
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