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2007-11-30 17:58
福田外交の静かな船出
佐藤考一
桜美林大学教授
福田康夫総理は、去る11月19日から22日まで、東アジア首脳会議(EAS)、日本ASEAN首脳会議等に出席するため、シンガポールを訪問したが、事前に噂されていた「第二福田ドクトリン」の発表はなく、福田外交の船出は静かなものとなった。関係諸国は、これをどう見たのか。また、今後の課題は何か。まず、中国の温家宝総理との間では、20日の会談で食事も共にし、2007年末か2008年初の福田総理の訪中と胡錦濤国家主席の2008年3月の訪日の予定を確認、2008年を日中友好年として両国の青年交流を進める計画等も話された。中国側はこれを友好的で実際的であったと評価している。中国海軍艦艇の訪日も実施され、緊張緩和が進んでいることは喜ばしいことであった。
一方、ASEAN首脳との間では、21日の日本ASEAN首脳会議で日本とASEAN全体の包括的経済連携協定(CEPA)を、2008年中を目途に取りまとめることが決まった。この構想は日本のコメやタイの自動車など一部の品目を除き相互の輸入の90%の関税を撤廃することを目指しており、経済地域主義への日本の意欲を示したものと期待されている。他に日本が提案した気候変動への対応である「クールアース50」や、鳥インフルエンザ等の感染症対策、海上安全への貢献、青年交流提案などがASEAN側から高く評価された。
また、北朝鮮問題については他の首脳会議の議長声明で使われた「人権問題(humanitarian concern)」だけでなく、より踏み込んだ「拉致被害者問題(the abduction issue)」という表現が議長声明に盛り込まれた。全体に、会議は温かい雰囲気で進められ、ASEAN側首脳たちは1977年に軍事大国化を否定し、「福田ドクトリン」でASEAN諸国との「心と心の交流」を進めた総理の父君の故福田赳夫総理の思い出にも言及したという。
このように、福田総理は中国側からも、ASEAN側からも歓迎された。経済協力や、気候変動・感染症への対策等はEASでも重要なテーマになった。また、ASEAN中国首脳会議では、議長声明に中国側の対ASEAN投資を促す一節が盛り込まれたことを考えると、福田外交は日本の技術力と地域への長年の投資実績に裏打ちされた形で地域諸国全体の支持を得たのだといってよい。いわば、日本の底力が評価されたのである。だが、第2福田ドクトリンは、いずれは出さなければならないであろう。総理自身が言うように、1977年当時と比べて現在は大きな変化があったからである。また、日本とASEANのCEPAはかなりの難航が予想される。ASEAN側は中国との自由貿易協定(ACFTA)を結んだ際、例えばタイは200品目、インドネシアは500品目を除外品目に入れているからである。東アジア協力と対米協調を軸とする福田外交の正念場はこれからである。
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