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2025-04-08 21:39
第3期習近平体制の人事的特徴④
松本 修
軍事アナリスト(元防衛省情報本部分析官)
2022年に発足して、本年で3年目を迎える第3期習近平体制の「内憂外患」というか「混迷」は続いているようである。2024年7月22日付の拙稿で指摘したように、漸く開催された中国共産党第20期中央委員会第3回総会(第20期3中総会)では行われなかった中央軍事委員会人事(新国防部長の董軍の委員就任)に関し、将来「他の委員の交代人事がある」かもしれず、「副主席の交代まで視野に入れた大規模な軍人事が準備されている」可能性があり、同4中総会の年内開催を予想していた。結果的に小生の予想は外れ、第20期4中総会は2024年中に開催されなかったが、中央軍事委員会の委員である苗華・政治工作部主任が更迭され(同11月)、2025年4月に入り何衛東・軍事委員会副主席の動静が不明となっており、「更迭」の可能性さえ噂されている。中央軍事委員会の構成は習近平主席以下7名であるが、今や存在を確認出来るのは習主席、副主席の張又侠、委員の劉振立・聯合参謀長、張昇民・軍紀律検査委員会書記の4名に過ぎない。こうした軍事指導体制下、真っ当な軍事活動を行えるのか疑問であるが、対台湾軍事演習は強行されている。
そんな考察をしていたところ、更なる「混迷」が伺える党人事が明らかとなった。4月に入り香港紙等で報じられたように、2022年の第20回党大会で共に政治局委員に選出された李幹傑と石泰峰の職務交代が行われ、統一戦線工作部長の石泰峰が組織部長、組織部長の李幹傑が統一戦線工作部長にそれぞれ就任していることが確認された。2027年の次期党大会まで5年間の任期途中における職務交代は「異例」の措置であり、過去に前例は無いとされる。しかしながら、第20回党大会直後、2022年11月5日付の拙稿で指摘したように、上記の2名は政治局委員であると同時に、日常の党務を主管する事務処理機構である書記処(書記局)書記に選出されていた。当時、書記7名は一新されており、筆頭書記である政治局常務委員の蔡奇・中央弁公庁主任以下、政治局委員兼務の石泰峰、李幹傑、陳文清・政法委員会書記、李書磊・宣伝部長の4名に加え劉金国・紀律検査委員会副書記、王小洪・政法委員会副書記の構成であった。
今回の人事異動を、単なる書記間の職務交代で「幹部交流」の一環としてみるなら問題ないとみえるが、党内幹部人事を仕切る組織部長の途中交代なら全く異例である。そもそも習近平の「秘書室長」として党務全般に目配りする中央弁公庁主任の蔡奇・筆頭書記とともに、要職である組織部長の李幹傑書記の人事は遅く党大会直後も、前任の丁薛祥主任や陳希部長が職務を続行していたのである。今回、組織部長の李幹傑が「格下」とさえみえる統一戦線工作部長に就任したのは、当初の就任の遅れと同時に「実力不足」と習近平・総書記に見なされたのであろうか。他方、統一戦線工作部長の石泰峰が「格上」である組織部長に就任したのは、隷下にある党・政府の幹部養成機関である中央党校(国家行政学院)トップへの抜擢を予定したものであろうか。石泰峰は過去、中央党校副校長や社会科学院院長の経験があることから適任の人事とも言える。また、現在のトップは2017年11月以来約7年間余り、前組織部長の陳希(習近平総書記の学友)であり、李幹傑の組織部長就任でも恒例の「兼職」はなかったのであることから、今後、党や軍の人事異動が予想される第20期4中総会開催をめぐる動向が注目されよう。
ここまで考察を重ねて来て小生は、第3期習近平体制の人事的特徴は、2025年1月の就任以来、政府や軍のVIP人事を断行する「トランプ化」の模倣なのか、それとも「習近平体制」の一層の深化なのか、まだ判断出来ていない。しかし、いずれにせよ中国の不透明な混迷は継続し、「内憂外患」状態は変わらないであろう。なお、既に一部の論者は購読されているかもしれないが、小生は2024年4月、拙著『あるスパイの告白ー情報戦士かく戦えり』(東洋出版)を刊行した。間もなく刊行1年を迎えるが、内容に興味のある方はどうか御笑覧願います。
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