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2024-02-24 11:26
尖閣諸島問題で日本国は世界に模範を
倉西 雅子
政治学者
尖閣諸島問題の解決については、国連海洋法条約を活用するという方法もあります。それでは、同条約では、紛争の解決についてどのように定めているのでしょうか。同条約の第15部では、紛争の解決に関する条文を置いています。その第279条では、全ての締約国に対して紛争を平和的手段によって解決する義務を定めており、当然に、日本国も中国も共に同規定に従う締約国としての義務があります。即ち、尖閣諸島問題について日本国が中国に対して平和的な解決を求めた場合、中国側は、この要請に誠実に応える法的な義務があることを意味します(平和的解決の拒絶や軍事的解決は違法行為となる・・・)。
もっとも、同条約では、解決の付託機関としてICJを指定しているわけではありません。平和的手段については幅広い選択肢を設けており、締約国が紛争の性質や内容にそって解決手段を選べるように設計されています。第一義的には紛争当事国間相互の合意による解決を想定しており、紛争が発生した場合の意見の交換も義務づけています。しかしながら、当事国間による解決が得られない場合には、第三者を介する次の手段に進むこととなります。なお、一般協定、地域協定並びに二国間協定に基づく解決も選択できますので、日本国政府には、サンフランシスコ講和条約や日中共同声明、並びに、日中平和友好条約に基づく解決を中国に対して求めるという選択肢もあります。同国連海洋法条約に基づく紛争解決手続きとしては、先ずは調停が挙げられていますが(第284条)、紛争解決機関として(a)付属書Ⅵよって設立される国際海洋法裁判所、(b)国際司法裁判所(ICJ)、(c)付属書Ⅶによって組織される仲裁裁判所、(d)付属書Ⅷに規定する1又は2以上の種類の紛争のために同付属書によって組織される特別仲裁裁判所の4者を挙げています。いずれの国も、これらの手段のうち、1または2以上の手段を自由に選択することが出来るとされています(第287条)。
ただし、(a)国際海洋法裁判所に関する付属書Ⅵ第24条1項が定める手続きを見ますと、特別の合意の通知と並んで書面による申立てにより手続きが開始されるとありますので、単独提訴も可能なように読めます。しかしながら、上述した第287条の5項には、「紛争当事者が紛争の解決のために同一の手続きを受け入れていない場合には、当該紛争については、紛争の当事者が別段の合意をしない限り、付属書Ⅶに従って仲裁にのみ付すことができる」とあります。この規定があったからこそ、フィリピンは、2016年に南シナ海問題をめぐる解決を常設仲裁裁判所に託さざるを得なかったのです。しかも、常設仲裁裁判所の規程にあっても、一方の当事者による単独提訴を認めているのです。以上より、国際司法制度の現状からしますと、日本国政府が中国に対して尖閣諸島問題の平和的な解決を求めるに際して、手続き上、最もハードルが低く、容易な方法とは、フィリピンと同様に常設仲裁裁判所に中国の違反行為を提訴するという方法となりましょう。領有権問題に直接に踏み入らなくとも、他の周辺的な権利上の争いとして判決を得る事はできます。その一方で、仲裁では、暫定措置が必要となる場合に、手遅れになる怖れもあります。何故ならば、同条約第290条の5項では、仲裁裁判所が構成されるまでの間、国際海洋法裁判所が同仲裁裁判所の管轄権を推定して暫定措置を定めることができるとしているのですが、他方の当事国への通告から2週間経過する必要があるからです(同2週間の間は、中国に対して実力行使を止める暫定措置命令を発することが出来ない・・・)。もっとも、中国の公船が尖閣諸島周辺の領海内に侵入し、軍事的な威嚇をも繰り返している今日、既に、仲裁裁判に訴え、暫定措置を要請する段階に至っているとも言えましょう。全く当てにならない「海空連絡メカニズム」を日中間で構築するよりも、司法的な手段に訴えた方が余程抑止効果が期待されます。
何れにしましても、日本国政府には、中国に対して尖閣諸島の平和的解決を要請する条約上の義務があり、同一の義務は、中国にも課せられています。しかも国連海洋法条約のみならず、日中間の二国間条約にあっても中国は平和的解決を拒否できない立場にあるのですから、日本国政府は、当事国の合意による国際司法機関への解決付託を中国に対して申し入れるべきと言えましょう。司法解決を拒絶する正当な理由は、中国にはないはずです。その間、他のアプローチも同時並行的に進める一方で、日中両国の合意による付託を拒絶された場合には、単独提訴の道に切り替えるといった複線的で柔軟なアプローチも必要となりましょう。そして、何よりも先にすべきは、日本国政府は、領域に関する問題については司法解決を日本国の基本方針とする旨を内外に向けて明示することのように思えます。軍事力に訴える国が安易に戦争を起こす中、日本国政府は、国際社会における平和的解決のあり方の模範を示すべきではないかと思うのです。
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