ホーム
新規
投稿
検索
検索
お問合わせ
2023-02-24 17:10
中國・北朝鮮・ロシアが恐れる最強の日米共同防衛体制確立
加藤 成一
外交評論家(元弁護士)
2022年2月の国連安保理常任理事国で核保有国でもあるロシアによる非核保有国ウクライナに対する国際法違反の軍事侵略は、日本国民に衝撃を与え、如何なる世論調査を見ても国民の多数が「反撃能力」保有を含む日本の防衛力強化に賛成している。そのため、岸田政権は他国による侵略から、国民の命と平和な暮らしを守るため、「反撃能力」(「敵基地攻撃能力」)保有を含む防衛力の抜本的強化に乗り出し、同盟国の米国バイデン政権もこれを高く評価し歓迎している。
すなわち、岸田政権は2022年12月16日下記の「安保3文書」を閣議決定した。「国家安全保障戦略」では、中国について、「我が国と国際社会の深刻な懸念事項であり、これまでにない最大の戦略的な挑戦」と規定した。「国家防衛戦略」では、敵の弾道ミサイル攻撃などに対処するため、敵のミサイル発射基地等をたたく「反撃能力」の保有を明記した。「防衛力整備計画」では来年度から5年間の防衛費として概ね対GDP2%の総額43兆円を明記した。
上記の閣議決定のうち「防衛力整備計画」で定めた防衛力強化のための5年間総額43兆円の防衛費増額は日本の安全保障上極めて重要である。そのうえ、「国家防衛戦略」で定めた「反撃能力」の保有は日本の安全保障政策の大転換として画期的である。なぜなら、これまで日本政府は合憲ではあっても防衛政策として「反撃能力」を保有しなかったからである。
しかし、中国、ロシア、北朝鮮によるミサイル技術開発が飛躍的に進歩した結果、極超音速弾道ミサイル攻撃、多弾頭ミサイル攻撃、変則軌道ミサイル攻撃、ミサイル飽和攻撃などに対するミサイル防衛が困難となり、国民の生命・財産を守るためには敵のミサイル発射基地等をたたく長射程弾道・巡航ミサイルを含む「反撃能力」の保有が必要不可欠となったのである。
ところが、日本共産党や日本弁護士連合会などは、「反撃能力」保有に反対している。主たる反対理由は、「反撃能力」の保有は相手国の領域内への攻撃であるから憲法9条の「専守防衛」に違反する、「反撃能力」の保有は必要最小限度を超え憲法9条が禁ずる「戦力」に該当する、「反撃能力」の保有は先制攻撃の危険性があり反撃を受けて全面戦争になる、日本が攻撃されていないのに、集団的自衛権として「反撃能力」を行使すれば、米国の戦争に巻き込まれる、武力に依存せず北東アジアに米・中・ロ・北朝鮮を加えた平和の枠組みを構築するなど、憲法9条に基づく平和外交に徹するべきである、などである。
しかし、このような日本共産党や日本弁護士連合会の反撃能力保有反対論は、ロシアのウクライナ侵略の衝撃や、中国による「台湾有事」「尖閣有事」の危険性、北朝鮮の弾道ミサイル発射や核開発等に対する危機意識の欠如に由来するものであり、ロシアによるウクライナ侵略後の日本国民の危機意識と著しく乖離している。のみならず、反撃能力保有反対論は、他国の弾道ミサイル攻撃から国民を守るための現行のミサイル防衛の困難性については一顧だにせず、これを無視しているのである。
まず、「反撃能力」の保有は憲法9条の「専守防衛」に違反するとの反対論については、もともと座して死を待たない「反撃能力」(「敵基地攻撃能力」)の保有は、1956年の鳩山一郎内閣以来「専守防衛」に反せず合憲とされてきたのであり、防衛政策上保有しなかったに過ぎない。しかし、日本を取り巻く安全保障環境が激変し、ミサイル技術が格段に進歩して、他国のミサイル攻撃から国民を守るミサイル防衛が困難になり、他に手段がなければ、自衛のために敵のミサイル発射基地等をたたく「反撃能力」の保有は、「専守防衛」に違反せず合憲であると解するのが相当である。最高裁判所も、憲法9条は他国の武力攻撃から国家と国民を守るための自衛権を放棄していないと明確に判示しているのである(最大判昭34・12・16砂川事件参照)。
そもそも「専守防衛」とは、日本が他国を侵略する「侵略戦争」を否定する概念であり、他国の武力攻撃から国民を守る自衛のための「反撃能力」の保有を否定する概念ではない。のみならず、このような「反撃能力」は、個別的又は集団的自衛権として国連憲章第51条でも容認されている国際法上の権利である。
次に、「反撃能力」の保有は憲法9条の「戦力」に該当するとの反対論については、一貫した「政府見解」によれば、「戦力」とは「自衛のための必要最小限度を超えるもの」であるが、必要最小限度は軍事技術の発達や相手国の攻撃能力に応じて決まる相対的概念である。上記の通り、ミサイル技術の進歩でミサイル防衛が困難となり、他に手段がなければ、国民の命を守るための「反撃能力」の保有は必要最小限度を超えない自衛力として「戦力」には該当しないと解するのが相当である。
さらに、「反撃能力」の保有は「先制攻撃」の危険性があるとの反対論については、「反撃能力」の行使は、実際上米軍と共同し多数の偵察衛星や無人偵察機等を含む高度な情報交換と情報共有が前提であり、日米相互の緊密な連携・協力により抑制が働くから「先制攻撃」の危険性はないと言うべきである。また、「戦争に巻き込まれる」という集団的自衛権は、国連憲章第51条が認める国際法上の権利であり、日米共同防衛体制強化の一環として、むしろ戦争を抑止するために極めて有効である。最後に、平和外交の重要性は、従来から一貫して日本政府も極めて重視しているのであり、「反撃能力」の保有は我が国の平和外交を補完し補強するものである。
以上により、今回の岸田政権による「反撃能力」保有を含む防衛力の抜本的強化と防衛費の飛躍的増額、海上保安庁強化などの日本の画期的な防衛政策の大転換は、これを中国、北朝鮮、ロシア側から見れば、米国の強大な核抑止力を含む手強い日米共同防衛体制の抜本的強化であり、日本側から見れば、これらの国に対する日本の抑止力の抜本的強化に他ならない。
中国、北朝鮮、ロシアは、同盟国の米国が高く評価し歓迎する岸田政権の新たな防衛政策の大転換を厳しく批判している。これらの国は米国の強大な核抑止力を含む日米共同防衛体制の強化を恐れているのであり、とりわけ、中国・ロシアなど力による現状変更を躊躇しない権威主義国家にとっては、極めて不都合だからである。
このように、「反撃能力」保有の本質は、日本が米国と共同して鉾(攻撃力)の役割を分担することによって、日米同盟の抑止力が格段に強化され、中国・北朝鮮・ロシアが恐れる最強の日米共同防衛体制が確立されることにあると言えよう。
>>>この投稿にコメントする
修正する
投稿履歴
一覧へ戻る
総論稿数:4661本
東アジア共同体評議会