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2023-02-20 09:08
台湾地方選民進党大敗と「台湾有事」への影響
加藤 成一
外交評論家(元弁護士)
11月26日行われた台湾の統一地方選で与党の民主進歩党(「民進党」)は歴史的大敗を喫し、蔡英文総統が責任を取り党主席を辞任すると発表した。統一地方選の結果、これまで民進党所属の市長であった台北市や桃園市など人口の多い台湾の主要4都市の市長がいづれも野党国民党所属の市長となった。民進党の大敗であり米国バイデン政権も衝撃を受けたと思われる。現地からの報道によれば、民進党の大きな敗因は「物価高騰と景気低迷」とされる。国政選挙ではなく地方選挙であるため住民は生活重視で「台湾有事」の選挙への影響は限定的だった可能性がある。
早速、中国国営新華社通信は「この結果は平和や安定を求め、良い暮らしをしたいという主流の民意を反映したもの」と評価し歓迎する談話を発表した。中国政府は今回の地方選に重大な関心を持っていたと思われる。今後、台湾住民が国政選挙や総統選挙などにどのような意思を示すかが注目される。近年、とりわけ日本の保守系政治家や言論界の間では、「台湾有事」は「日本有事」であるとする危機感が高まっているが、この選挙結果を受け、日本としては、予断を持たず、台湾住民の民意と中国の動向を正確に把握し分析する必要がある。
今回の地方選挙で台湾住民が与党の民進党ではなく野党の国民党を支持した理由については、二つの可能性が考えられる。一つは、いわゆる「台湾有事」への台湾住民の危機感が日本の保守系政治家や言論界が考えるほど切迫していないこと、もう一つは、危機感が切迫しているからこそ、中国による「台湾侵攻」を回避するため対中強硬の民進党ではなく、対中融和の国民党を支持したことである。今回の選挙結果を見る限り、後者よりも前者の可能性が高い。その理由は、台湾住民は今回の選挙で民進党が主張した「台湾有事」よりも「生活重視」で国民党を支持したこと、台湾住民は中国による軍事演習や軍事圧力には長年心理的に慣れていること、正式の同盟国ではないが「台湾関係法」に基づき「準同盟国」ともいうべき米国の軍事力・抑止力に対する信頼があること、中国政府は台湾の独立は軍事力で阻止すると表明しているが、台湾住民の86・1パーセントが「現状維持」を望み、「独立」は6・4パーセント、「統一」は1・4パーセントに過ぎないこと(2022年8月18日台湾「大陸委員会」世論調査発表)、中国政府も米軍介入の危険性がある「台湾武力統一」に限定せず、戦わずして勝つ「平和的統一」も選択肢の一つとしていること、などである。
このように考えれば、今回の統一地方選挙では、台湾住民は「台湾有事」に対して意外に冷静であり、必ずしも危機感は切迫していないと見られる。しかし、習近平政権の「中華民族の偉大な復興」は「台湾統一」を前提とするから、そのために、中国は今後台湾に対して軍事的圧力を加えるともに、与野党や台湾住民に対しても、「統一支持」への世論工作を強化する可能性が高い。すなわち「和戦両様」の圧力を加えるであろう。そうだとすれば、日本も今後台湾住民の民意と習近平政権の動向を注意深く分析するとともに、いかなる事態にも対応できるように、「台湾有事」や「尖閣有事」を抑止するに足りる日本の抑止力の一層の強化と米国との同盟関係の強化を図るべきである。
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