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2022-12-11 19:41
第3期習近平体制の内政動向③
松本 修
国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
12月6日、江沢民同志追悼大会が北京の人民大会堂で開催された。中国共産党トップの習近平総書記が弔辞を行い、追悼大会は蔡奇中央書記処筆頭書記(ナンバー5の政治局常務委員、前北京市党委員会書記)が主宰(司会)した。かつて25年前の1997年2月に行われた鄧小平同志追悼大会は、江沢民総書記(当時)が弔辞を行い、追悼大会はナンバー2であった李鵬総理(当時)が主宰していた。今回、敢えて序列の低い蔡書記に追悼大会を仕切らせた習近平総書記の意図は何であったのか。また、追悼大会後に同日開催された政治局会議の中身も併せてみていこう。
先ず習総書記の弔辞は約50分間行われ、前段の13年にわたる江沢民治世(1989年~2002年)の礼賛に続き、後段は、その貴重な遺産を受け継ぐ習近平時代を「新たな長征」(中国語:新征程)として強調する内容となった。追悼大会後の葬儀委員会公告が「悲痛を力に転化する」とし、「全党全軍全国各民族・人民は習近平同志を核心とする党中央の強固な指導の下、中国の特色ある社会主義の旗を高く掲げ、習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想を全面的に貫徹すると決心した」と強調したように、今回の長老の死も自らの治世の維持・発展に利用する習総書記の意図が鮮明となった。その流れからすると、翌7日から10日までサウジアラビア訪問に出た習総書記(国家主席)一行に丁薛祥党中央弁公庁主任(ナンバー6の政治局常務委員)が含まれており、「秘書役」たる丁主任は外遊活動優先となり、国内の葬儀の準備・主宰は腹心の蔡書記に回って来たということであろうか。しかし、先の党大会で抜擢された他の「チャイナセブン」(特に新人の李強、李希)は存在感無く全く目立たず、追悼大会の「列席」要員に終始した。
そして、恐らく追悼大会後に開かれた中国共産党の中央政治局会議は、2023年の経済工作を分析研究するとともに、2023年の反腐敗活動も研究・配置した。経済工作の基調は「安定の中に発展を求める」ことであり、「引き続き積極的な財政政策と穏便な貨幣政策を実施し、各種政策とバランスのとれた配合を行って防疫措置を高度化(中国語:優化)して質の高い発展を共に促進する力にする」とし、特に「党の経済工作に対する全面的な指導を強化し、幹部、地方、企業、民衆の活力を発揮させる」と強調したが、問題はその実行役と具体的な政策である。国務院(政府)の総理・副総理や経済閣僚は来年3月に開催が予定される第14期全人代第1回会議で一新されるが、そこまでをいかに繋いでいくのかが全く不分明である。新たな経済ブレーンの存在も画期的な経済献策も現れておらず、今後の経済工作関連会議の動向が注目されよう。
最後に、こうした第3期習近平体制の「不透明さ」の原因は、党大会後に頻繁に繰り返される人事異動にあると小生はみている。従来の中国政治の流れからすると、地方の首長(党委員会書記、同副書記兼務の市長・省長・自治区主席)は党大会以前に異動するのが常で、それが今後の党内、あるいは政府の役職等を予測する目安となった。しかし、10月末の党大会以後に行われた地方首長の人事交代11件の実態は以下のようなものである;
1 10月28日上海市党委員会書記:李強(政治局常務委員63歳)
→陳吉寧(政治局委員抜擢 前北京市長・同党委員会副書記58歳)
2 10月28日広東省党委員会書記:李希(政治局常務委員67歳)→黄坤明(前党中央宣伝部長66歳)
3 11月13日北京市党委員会書記:蔡奇(政治局常務委員67歳)
→尹力(政治局委員抜擢 前福建省党委員会書記60歳)
4 11月13日福建省党委員会書記:尹力(政治局委員)→周祖翼(前人力資源社会保障部長57歳)
5 11月27日陝西省党委員会書記:劉国中(政治局委員60歳抜擢)
→趙一徳(前陝西省長・同党委員会副書記57歳)
6 11月27日遼寧省党委員会書記:張国清(政治局委員58歳抜擢)
→カク(こざとへんに赤)鵬(前国有資産委員会党委書記62歳)
7 12月 7日浙江省党委員会書記:袁家軍(政治局委員)→易練紅(前江西省党委員会書記63歳)
8 12月 7日江西省党委員会書記:易練紅→尹弘(前甘粛省党委員会書記59歳)
9 12月 7日甘粛省党委員会書記:尹弘→胡昌昇(前黒竜江省長・同党委員会副書記59歳)
10 12月8日天津市党委員会書記:李鴻忠(政治局委員66歳留任)
→陳敏爾(政治局委員留任 前重慶市党委員会書記62歳)
11 12月8日重慶市党委員会書記:陳敏爾→袁家軍(政治局委員抜擢、前浙江省党委員会書記60歳)
北京、天津、上海、重慶の四大直轄市のトップ交代を含め、31省・市・自治区の約30%のトップが、党大会後40数日で入れ替わったことになり、党務や政務の継続性などは問題外である。そしてトップを退きながら、新たな役職が確認出来ない要人(政治局委員)が3人いる。彼らは5の劉国中60歳、6の張国清58歳、11の李鴻忠66歳である。今回政治局委員に抜擢された前2者は今後国務院入り、政治局委員に留任した李鴻忠は全人代入りであろうか。また、これら人事異動「命令」を現地に赴き通告する役目は、依然として中国共産党中央組織部長の陳希69歳であり、この党内要職の異動は行われていないのだ。小生は、後任は党大会で政治局委員に抜擢され、中央書記処書記にも任命された李幹傑・山東省党委員会書記58歳こそが相応しいとみているが、山東省の人事異動は行われておらず今後の動向が注目される。
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