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2022-12-03 07:34
対話が生み出す緊張緩和
岡本 裕明
海外事業経営者
11月に行われた東南アジア各地での数々の国際会議と首脳会議はコロナ以降、最も活発な重層的外交交流となっています。米中首脳会談では明らかにトーンは緩和方向。バイデン大統領が中国に気を遣い、会談は中国団の宿舎(ホテル)に出向く形で3時間にわたり行われました。主題の一つ、台湾問題は平行線でしたが、中国がアメリカとの対話を再開することとし、ブリンケン国務長官が近々中国入りし、実務レベルの山積する案件の交渉再開がまとまっています。これは評価すべき進展だと思います。日韓首脳会議でも徴用工問題を韓国国内でどうにか片付けようと事務レベルで動いていますが、なかなか展開しない中、尹錫悦大統領は解決に向けた努力を約束しています。更に岸田首相が習近平国家主席と同月17日にタイのバンコクで会談する予定も、その3日前に発表されました。この会談は岸田氏が日本を発つ前からずっと中国側と調整していたものですが、今般確定したのはたぶん、バイデン大統領との会談を受けたあとの政治的判断をしたのだと思います。これも評価できます。
11月14日付の産経新聞に「支持率続落の底なし沼 旧統一教会への対応が焦点」とあり、岸田政権の支持率が38.6%に下落したと報じています。法務大臣の発言問題と統一教会問題さらには判断の遅さなど様々な点が指摘された結果です。ただ、公平に見て岸田氏にプラスの面が全くないわけでもなく、メディアの偏向報道が世論を形成した部分も大いにあると思います。もともと岸田氏は外務大臣経験者であることもあり、外交面に力を入れているのは事実で精力的な外交活動は安倍氏と良い勝負です。ところが国内の政権支持率にしろ、選挙のイシューにしろ、外交はまず主題にならないのです。これはアメリカでも英国でも同じで常に国内問題が主軸になります。物価高は世界中の政権に与えられた課題ですが、イシューとしては一国の首相や政権が取り組む課題としては大きすぎるのが正直なところなのです。だからこそ外交交渉はその一環だともいえ、岸田首相が何もしていないわけではないのです。メディアはそこが全然わかっていません。
ところで国のトップが外交に力を入れるもう一つの理由をご存知でしょうか?それは、国内問題は議会とのやり取りを通じた法制化という複雑なパワーゲームがあるからなのです。一方で、外交問題は政権が議会とは別次元で動きやすいのです。そして派手なパフォーマンスや成果も得やすいわけです。そこでトップが国内問題を横にしてでも外交に走りやすいのはそのような背景もあるのです。
さて、本題に戻りますが、私は中国のポジションは今後、やや軟化するのではないかと予想しています。それは習近平氏が外交活動を再開したことが理由です。習氏は共産党大会で自分の任期と国内派閥の問題を解決することに過去3年間、全精力を注ぎ込んできました。一応、今回でそのしがらみは解けたので外交を積極化するとみています。トップ外交で重要なのは、完全平行線は割と少ない点です。それまでに事務方が必死の調整をするわけですが、その落としどころを確認するのがトップ同士の会談です。つまり、完全平行線ならトップ会談そのものが成立しないのです。故に会談があるということは何らかの妥協がそこに生まれると考えてよいのです。その中で習氏が外交を再開すれば、習氏のスタンスはある程度軟化せざるを得ないのです。それを誘い込んだバイデン氏は老獪とは言わないですが、経験故の策士だったと思います。以前、トランプ氏が金正恩氏と会談した際は金氏を外に引っ張り出したという点で極めて評価すべきものでした。問題はアメリカと北朝鮮の事務交渉が仮にどういう形であっても金正恩氏がそれを踏襲せず、ちゃぶ台返しをしたために会談の成果が得られないわけです。つまり金正恩氏が国際社会において適応不可能で頑なな態度を少しでも軟化させ、第三国で会談をすれば北朝鮮の緊張緩和に大きく進む余地もあるのです。まずは金氏がもっと大人にならねばならないということでしょう。
では最後に対話が最も欠如しているのは誰か、であります。プーチン氏とゼレンスキー氏です。プーチン氏は言うまでもないのですが、ゼレンスキー氏は味方を取り込む目的の対話はしますが、敵や第三国を介した交渉は上手ではないように見えます。まずは世界が対話のある社会を取り戻すことでプーチン、ゼレンスキー両名を取り囲むようにして休戦調停の圧力をかけるべきなのでしょう。今回の一連の東南アジア頂上会合がその地ならしになればよいと思います。
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