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2022-11-27 14:31
第3期習近平体制の外交動向
松本 修
国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
10月末の党大会で第3期指導部人事を確立した習近平国家主席は、11月に入り国際舞台に復帰した。いわゆる「習近平外交」(Xiplomacy)が始動し、先ずはタンザニア大統領、パキスタン首相、ベトナム国家主席、ドイツ首相を北京に迎え、相次いで首脳会談を行った。さらに14日から習近平はインドネシア、タイへ外遊に出た。注目された主要随行者は彭麗媛夫人、丁薛祥党中央弁公庁主任(政治局常務委員)、王毅外交部長(政治局委員)、何立峰国家発展改革委員会主任(政治局委員)、楊傑チ党中央外事弁公室主任だった。この中で王部長、何主任は北京における首脳会談に同席する一方、丁主任は「チャイナ7」党最高指導部入りしながら習主席の「秘書役」を継続しているが、今後交代人事はないのであろうか。以下は、注目された米中首脳会談、日中首脳会談の中身をみていこう。
11月14日、G20首脳会議が開催されたインドネシア・バリ島で習近平国家主席とバイデン米大統領の首脳会談が行われた。中国メディア「環球時報」によれば、今回の米中首脳会談は①「COVID-19」発生後3年間で初の対面会談、②バイデン大統領就任以来、両国元首初の会談、③両国の政治イベント(米中間選挙、中国共産党大会)終了後初の首脳会談、④8月のペロシ米下院議長による台湾訪問後初の首脳会談と「初物尽くし」であった。確かに首脳外交で対面外交は全く実現しておらず、2022年も3月、7月と電話会談が2回行われただけだった。米ホワイトハウスが明らかにした会談前の発言録によれば、バイデン大統領は「我々は、互いに副大統領(英語:vice presidents 習近平は国家副主席)時代から多くの時間を過ごして来た」とし、習国家主席も「我々が最後に会ったのは2017年のダボス世界経済フォーラムで5年前の事だ」と応答した。では、実際の会談の内容はどうだったのか。
中国側は「両国元首は、米中関係における戦略的問題、及び重大なグローバル・地域の問題について率直、かつ深く意見を交換した」と報道しており、「率直」(中国語「坦誠」)とは首脳間で激しい意見の応酬があったことを表している。習主席は「米中関係発展の正しい方向を模索し、米中関係を健全かつ安定発展の軌道へ戻すようにしたい」と切り出す一方、「台湾問題は中国の核心的利益における核心であり、米中関係の政治的基盤における基盤であり、米中関係において越えてはならない第一のレッドライン(中国語「紅線」)である」と断言した。これに対し、バイデン大統領は「新疆、チベット、香港における実態、及び広く人権問題に関する懸念を表明する」、台湾についても「一つの中国政策は変わらないが、米国は互いが一方的な現状変更に出ることには反対する」とし、「世界は台湾海峡における平和と安定の維持に利益がある」と指摘した。こうした厳しい雰囲気の中で3時間行われた米中首脳会談で、中国側の報道によると「両国元首は①双方の外交団が戦略的な意思疎通を維持して通常の協議を行う、②双方の財政金融団がマクロ経済政策、経済貿易問題等で対話を行う、③COP27会議成功のため双方努力する、④公共衛生、農業・食料安保問題で対話・協力を行う」ことで合意したという。しかし、首脳会談後の米ホワイトハウスのブリーフは「両国指導者は、今回の議論継続のためブリンケン国務長官の訪中で合意した」と伝えるのみであった。他方、米中首脳会談直後の11月18日、中国の王文濤商務部長は、APEC非公式首脳会議が開かれたタイのバンコクでタイ米通商貿易機構(USTR)代表と会談した。双方は共に関心のある米中経済貿易問題、及び多国間・地域経済問題について率直、かつ専門的・建設的な交流を行い、協議継続で合意したという。また、22日にはASEAN拡大防衛相会議が開かれたカンボジアで、中国の魏鳳和国防部長は、オースティン米国防長官と会談した。軍事交流に関しては8月のペロシ訪台によって停止されており、先の米中首脳会談の合意事項にもなかったが、双方は両軍が首脳会談で合意した重要な共通認識を定着させ、協議・接触を維持し、危機管理(中国語「危機管控」)を強化し、地域の安全安定維持に努力すると認識したという。こうした閣僚レベルの交渉からみて、いわゆる「米中対立」の局面は当面緩和されたのであろうか。しかし25日、米国の連邦通信委員会(FCC)は行政命令を発し、中国の華為技術(ファーウエイ)、中興通訊(ZTE)、杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)、浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)、海能達通信(ハイテラ)5社の電子機器が米国の安全性を脅かすリスクがあるとして製品販売を禁止したとされ、今後の動向が注目される。
次に11月17日、APEC首脳会議が開かれたタイのバンコクで、4年振りに行われた習近平国家主席と岸田文雄首相の日中首脳会談の中身をみてみよう。習主席は「本年は日中国交正常化50周年を共に記念したが、この50年間、双方は4つの政治文献と一連の重要な共通認識で合意した。各領域の交流・協力の成果は豊富で、両国人民に福祉をもたらし、地域の平和・繁栄・発展も促進した」と述べる一方、「歴史、台湾など重大な原則問題は、両国関係の政治的な基礎と基本的な信義に関わるから、あらためて守り、妥当に処理しなければならない」、「中国は他国の内政に干渉しないし、いかなる者の、いかなる口実での中国内政への干渉は受け入れない」と強調した。これに対し、岸田首相は「昨年10月、我々は対話に成功した。現在、両国各分野の交流・協力は徐々に回復しており、日中は近隣の国として互いに脅威にはならないし平和共存が必要である」と主張した。同会談で習主席は、日中国交正常化50周年を共に「記念」したと表現したが「祝賀」に言及しなかったこと、また岸田首相も両国の国交正常化50周年に言及しなかったことから低調な雰囲気が伺え、また米中首脳会談が3時間行われながら日中首脳会談はたった30分しか行われなかったという。しかし、中国外交部は首脳会談翌日の18日、HP上に日中関係の安定・発展に関する「5つの共通認識」を公表した。いつもなら日本の外務省が「成果」を喧伝するのが常だが、今回は中国側が①日中関係の重要性は変わらず、変えてはならない、②早期に新たな日中経済ハイレベル対話を行う、③国交正常化50周年記念に関する一連の活動を積極的に評価する、④早期に防衛部門の海空連絡メカニズムのホットライン(中国語「海空聯絡機制直通電話」)を開通する、⑤国際的・地域的な平和と繁栄を維持する責任を共に担うという中身の「合意文書」を恐らく一方的に明らかにし、日本側に履行を迫った形で異例である。こうした中国の行動を「対日重視・協力姿勢の鮮明化」という評論もあるが、小生は日本が西側諸国の「弱い関節」と見なされた可能性が高いとみており、今後も「Xiplomacy」の進展が注目される。
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