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2022-06-01 17:23
NATOは「拡大核抑止」特化の常設国際機関を設置せよ
加藤 成一
外交評論家(元弁護士)
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ侵略において、米国を中心としたNATO諸国に対して自国の強大な核戦力を誇示し、ロシアの戦争目的を妨害すれば核の先制使用を排除しない旨の「核恫喝」(「自国への服従を目的とする核による脅迫・威嚇行為」)を行った。これに対してNATOは、ロシアとの全面核戦争を恐れるあまり、まったく有効な対抗手段を欠く状態である。ロシアの核恫喝に対するNATOの脆弱性が露呈されたのである。今後もこのような事態が続けば、今回のロシアによるウクライナ侵略のように、核保有国による非核保有国に対する侵略行為はやりたい放題となり、同じ核保有国である中国や北朝鮮を喜ばせるだけである。中国については核恫喝による台湾併合や、北朝鮮については核恫喝による朝鮮半島の統一も一層現実味を帯びてくる。
このような事態を避けるために最も重要なことは、核保有国であるロシア、中国、北朝鮮等に対し、NATOが核恫喝が無効であり危険であることを認識させることである。そのためには、「拡大核抑止」に特化した、NATO諸国の強力なネットワークを構築する必要がある。具体的には、NATOが「拡大核抑止」を格段に強化するため、集団安全保障条約に基づき、「常設拡大核抑止強化国際協議機関」(「常設拡大核抑止強化国際会議」)を新たに設置し、NATO諸国を主要メンバーとする。そして、上記国際協議機関での協議や合意形成等には首脳・防衛担当閣僚・防衛軍最高幹部を派遣する。さらに、NATO諸国以外の日本や韓国、ウクライナ、台湾など、核を保有しない国や地域も、集団安全保障条約に基づき、正式メンバーとして参加可能とする。そして、協議や合意形成等には首脳・防衛担当閣僚・防衛軍最高幹部を派遣する。
「常設拡大核抑止強化国際協議機関」の運営は、(1)核を保有する米国および英・仏は、常時「拡大核抑止力」の充実強化を図り、上記国際協議機関がこれを担保する、(2)米国および英・仏は、核を保有しないすべての参加メンバーの国および地域に対して確実に「拡大核抑止」を提供・保障し、上記国際協議機関がこれを担保する、(3)核を保有しない参加メンバーの国および地域は、米国および英・仏の「拡大核抑止力」の充実強化等のために、GDP(「国内総生産」)に対応した一定額の財政的拠出金を上記国際協議機関に定期的に拠出する、(4)米国および英・仏は、「拡大核抑止力」の充実強化のための戦略的提携・技術的提携・情報交換・意思疎通を活発化・緊密化し、上記国際協議機関がこれを担保する、(5)ロシア、中国、北朝鮮等が、参加メンバーの国および地域に対して「核恫喝」を行った場合は、核を保有する米国および英・仏は、「核恫喝」を撤回させるため共同して対処し、上記国際協議機関がこれを担保する、(6)ロシア、中国、北朝鮮等が、参加メンバーの国および地域に対して先制核攻撃を加えた場合は、国連憲章第51条の集団的自衛権に基づき、米国および英・仏は共同してこれに対処し、核による大量報復攻撃を集団的に行うものとし、上記国際協議機関がこれを担保する。
上記の集団安全保障条約に基づく、NATO諸国の「常設拡大核抑止強化国際協議機関」への正式参加によって、核を保有しない日本や韓国、ウクライナ、台湾などは、「拡大核抑止」の恩恵を受ける。日本は米国単独の「拡大核抑止」(いわゆる「核の傘」)に加え、これと重層的にさらに米国および英・仏との集団安全保障条約に基づく「拡大核抑止」の恩恵を二重に受けることになる。そのため、日本の「拡大核抑止」は、必ずしも、「核共有」や「核保有」をせずとも、ロシア、中国、北朝鮮等に対して、現在よりも一層強固な体制となるであろう。米国に加えNATO諸国との「常設拡大核抑止強化国際協議機関」への正式参加を通じて、日本の集団安全保障条約に基づく「拡大核抑止」が一層強化されるからである。このように、「核恫喝」の有効性がなくなれば、将来、「核廃絶」への道が開かれる可能性もあり得るであろう。
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