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2020-02-20 01:09
安倍政権の「横紙破り」
伊藤 洋
山梨大学名誉教授
「横紙破り」を国語辞典で引いてみると「自分の思ったとおりを無理に押し通そうとすること。また、そのような人」とある。つまり付き合いたくない人物の総称である。ここでいう横紙なる紙は当然のことながら手漉きの紙であり、いうところの和紙である。和紙と洋紙はどこが違うかと言えば、和紙は「すだれ」に沿って一方向に繰り返し漉いていくために繊維がすだれの隙間の向き=「縦方向」に並ぶ性質がある。したがって紙を割くときに繊維の並びに平行な縦方向に裂くと切れ易く、横方向には強靭で切れにくい。横紙破りをする御仁は、これを無理に破るから裂け目が汚くなる。この「横紙破り」を安倍政権が盛んにやっている。そのコツは閣議決定というこの政権独創の「凶器」を使ってやる横紙破りである。その冒した事例は、沢山に、有り過ぎるぐらいに有るのでどれを挙げてもよいのだが、やはり新鮮な素材が時宜に適うのでその最新例を示す。
「政府は31日、2月7日で定年退官する予定だった東京高検検事長の黒川弘務氏(62)について、半年後の8月7日まで続投させる人事を閣議決定した。検事長が検察官の定年(63歳)を超えて勤務を続けるのは初めて。稲田伸夫検事総長(63)の後任に充てる可能性が出てきた。発令は2月7日付」(2020/02/01朝日新聞)。キーワードは「定年」である。今日現在では国家公務員の定年制は実に分かり易く、まず法務検察に対して「検察官の定年は63歳、検事総長のみ65歳」、「病院、療養所、診療所等に勤務する医師、歯科医師等」について65歳、「守衛、巡視、用務員、労務作業員、在外公館に勤務する職員等」について63歳、「事務次官、外局の長官等」について62歳である。
また、法人化以前の国立大学教員については、各大学に任せられていて戦後新制大学はそのほとんどが65歳、東大・東工大などでは60歳、京大は61歳、それ以外、東北大などの旧制帝国大学は63歳で、早めに定年させて地方大学への人材供給源としていた時代すらあったのである。そしてこれ以外の国家公務員についてはなんと1985年になって、それまでの慣例を引いてすべて60歳としたものである。つまり、何を言いたいかというと、検察幹部たる検事長・検事総長は特別に定める根拠があって、歴史的に早期から定年が定められたものであるということだ。おそらく、訴追という強い権力を持つ役職の長期在職による濁りを防止するために編み出された智慧だったのであろう。
しかるに、国会論戦を聞いていると、黒川氏の定年延長に関する閣議決定の法的根拠について、法務大臣は国家公務員法の条文を「適用(借用?)して」閣議に提案したと説明している。これは制度のプライオリティから無理があるのではないか。その無理を押した理由は、この大臣の説明によれば、昨今凶悪な重大事件が頻発しているがゆえに黒川氏の手腕が必要だからと述べた。それに対して、「どういう重大案件が有るのか」と尋ねられると、それは「高度な機密」ゆえ明かせないという。これが「殺し文句」となってその先が問えなくなる。これが横紙の殺伐とした破れ個所である。「横紙破り」を続けては、その場その場の政局では押し通せても、その先はあるまい。
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