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2019-06-26 16:13
韓国の‘メビウスの輪戦略’
倉西 雅子
政治学者
報道に依りますと、日韓請求権協定に基づいて日本国政府が提案した仲裁手続きを受託するに際し、条件を付したそうです。それでは、韓国が要求している受託条件とは、どのようなものなのでしょうか。付された条件とは、韓国側による従来の解決案であった日韓両国の政府、並びに、民間日本企業が共同で基金を設立し、同基金から韓国の最高裁で賠償が確定した原告に対して救済金を支払うというものです。この条件付け、どこか奇妙な感がぬぐえません。そして、韓国側の態度に対する違和感がどこから来るのかと申しますと、どうやら韓国は、狡猾な‘メビウスの輪戦略’を実行しているようなのです。‘メビウスの輪戦略’とは、一直線上にあるべき物事の始めと終わりを捩じ曲げてくっつけてしまうことで、輪の上を歩く人々を目的とは反対の方向に導いてしまう詐術的な戦略です。しばしばこの戦略は、国民に不人気な政策や反対を受けそうな事案を政府が実施したい場合、国民の反発を回避するために政治的に用いられてきました。‘メビウスの輪戦略’とは、言葉は悪いのですが、人々の期待を裏切る背信的な‘騙しの手口’なのです。
同戦略を今般の元徴用工問題に当て嵌めますと、韓国側の狡猾さがよく理解できます。日本国政府の目的は、国際司法の場で韓国側の言い分の不当性を明らかにし、韓国の最高裁判所が下した日本企業に対する賠償命令を取り消させるところにあります。日本国側が描く解決への道とは、凡そ韓国最高裁判所による賠償命令⇒仲裁手続き⇒日本国側の勝訴⇒韓国側の賠償命令の取り消しです。この解決への流れは時系列上の一直線上にありますので、スタートに戻ることはありません。一方の韓国側の目的は、自国の最高裁判所が下した判決を維持し、原告側に賠償金が支払われることです。ところが、歴代韓国政府も認めていたように、日韓請求権協定、並びに、関連資料を詳細に調べて検討すれば、‘元徴用工’に対する賠償責任が韓国政府にあることはほぼ確定的です。つまり、日本国政府からの仲裁提案を受託すれば、韓国側が敗訴するのです。そこで、韓国側は、ここで前代未聞の奇策を弄することとなります。それは、日本国側が仲裁において勝訴したとしても、日本国を韓国側原告の救済に追い込む策です。
‘メビウスの輪戦略’とは、上述したように、一直線上にある始まりと終わりを捻じ曲げて最初の出発点に戻してしまう戦略です。仲裁の受託に際して賠償命令の維持を条件として付す行為こそ、この始まりと終わりを繋げて‘メビウスの輪’を造る行為に他なりません。日本国政府は、たとえ仲裁委員会において自国の主張が認められたとしても、結果を見れば、あろうことか、日本側から救済金を取るという韓国の目的が達成されてしまうこととなるのです。つまり、‘メビウスの輪戦略’によって、韓国最高裁判所による賠償命令⇒条件付き仲裁手続き⇒日本国側の勝訴⇒韓国最高裁判所の賠償命令の維持となり、何時の間にかスタートに戻ってしまうのです。
日本国政府は、単独で仲裁手続きを進めると共に、同手段が行き詰ればICJ(国際司法裁判所)への提訴も検討しているそうです。解決機関としてICJを選択しても韓国側が同意する可能性は薄いでしょうから、単独提訴が可能な常設仲裁裁判所での解決を探るのも一案かもしれません。何れにしましても、日本国政府は、巧妙な罠にかかわることなく、筋の通った解決を目指すべきではないでしょうか。
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