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2019-04-11 20:10
「対米貿易交渉妥結なら中国経済回復」は無知な楽観論
田村 秀男
ジャーナリスト
延べ30億人規模の「民族大移動」が起きる春節(中国の旧正月)期間が終わったが、輸出産業が集中する広東省では、春節が終わって郷里から戻ったら勤め先の工場が閉鎖されていて、出稼ぎ労働者が途方に暮れていた。つい1年前までは隆盛を極めたインターネット関連の新興企業設立ブームは嘘のように消え去り、「投資家や起業家やメディアはそれを、中国インターネットの『凍(い)てつく冬』と呼ぶ」(2月6日付ウォールストリート・ジャーナル電子版)。中国に大甘の日本メディアは「中国、景気対策40兆円超、減税やインフラに」(1月29日付日本経済新聞朝刊)と、習近平政権による景気てこ入れ策を喧伝する。2008年9月のリーマン・ショック後の大型財政出動や金融緩和をイメージしているのだろうが、能天気もはなはだしい。
習政権には金融面のゆとりはない。中国人民銀行は外貨を裏付けに人民元資金を発行する。そして国有商業銀行などを通じて融資を行うというのが中国式金融モデルである。しかし、資本流出のせいで、海外から外貨を借り入れないと、外貨準備は減ってしまう。外貨、すなわちドル資産の裏付け無しに人民元を発行すれば、人民元の信用がなくなることを共産党政権は恐れている。他方では、元資金を供給しなければ、中国経済全体が金欠病になり、大不況に陥るので、やむなく元を発行する場合もあるが、限界がある。かつては人民銀行による元資金の発行には100%のドル資産を伴っていたが、最近では6割を切っている。これ以上の外貨資産抜きの金融量的拡大には逡巡せざるをえない。
結局、国有銀行は習主席肝いりの国有大企業には優先して貸し出すが、民営の中小企業や新興企業には新規融資を打ち切る。ノンバンクや地方政府にはカネを回さない。その結果、中小企業の倒産が相次ぐ一方で、農民から農地を取り上げ不動産開発に血道を上げてきた地方政府は債務返済が困難になっている。リーマン後、人民銀行による通貨発行量は急増し、それに支えられて新規融資は膨張していたが、15年後半から通貨発行量は減少、または横ばいに転じた。同年の人民元切り下げを機に、資本逃避が加速し、人民銀行は外貨資産を取り崩して人民元資金を市場から回収する。
しかし、金融の収縮は不動産バブルを潰し、結局は金融機関には不良債権となって跳ね返るので、17年にはやむにやまれず金融緩和して融資を拡大させた。しかし、外貨資産は減り続けるので、人民銀行は元の発行を抑制する中で、銀行融資を国有企業大手などに限定するしかない。米中貿易交渉が妥結すれば中国経済は好転するとの見方がエコノミストの間に多いが、中国金融に無知な楽観論だ。たとえ「休戦」になっても、破綻経済立て直しの決め手にはならないだろう。
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