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2019-02-17 11:27
日本共産党「徴用工判決」見解への法的検討
加藤 成一
元弁護士
昨年10月30日に新日鉄住金に対し、元「徴用工」4名への総額4憶ウォンの損害賠償を命じた韓国大法院(最高裁)の元「徴用工」判決は、元「徴用工」側が同社に対して強制執行の申し立てを行い、現在に至っているが、11月29日にはさらに三菱重工に対しても、元「徴用工」等への損害賠償を命じる同様の大法院判決が出された。今後さらに同様の賠償判決が続出することが懸念される。これらの元「徴用工」判決に対しては、政府与党をはじめ、立憲民主党、国民民主党、日本維新の会、主要マスコミなどは、いずれも、おおむね1965年の「日韓請求権協定」を無視した国際法違反の判決であるとの見解を示している。しかし、日本共産党など一部野党は、同協定によっても、元「徴用工」の個人請求権が消滅していないことを主たる理由として、今回の大法院判決を容認し、日本政府や当該日本企業に対して、韓国政府と補償交渉を行うべきとの主張をしている。この共産党の主張を韓国の文在寅政権は歓迎している。すなわち、共産党の主張は、(1)元「徴用工」は韓国に対する日本の植民地支配の犠牲者であり、国の方針に従って植民地政策を遂行した当該日本企業も元「徴用工」に対する反人道的な不法行為により多大の被害を与えたこと、(2)元「徴用工」の個人請求権は1965年の「日韓請求権協定」によっても法的に消滅していないこと、(3)日本政府も日本最高裁も個人請求権が消滅していない事実を認めていること、(4)したがって、この一致点に基づき日韓両政府において元「徴用工」への補償問題を協議すべきである、というものである。
以上の共産党の主張について法的に検討を加える。まず、(1)については、仮に戦時中における「強制動員」など日本政府および当該日本企業による元「徴用工」への様々な「人権侵害行為」が事実として存在したとしても、それに基づき発生した「慰謝料請求権」が1965年の「日韓請求権協定」において一切考慮されなかったのかどうかが問題である。確かに、共産党が主張する通り、同協定の締結に当たって、日本側は、韓国側による「不法な植民地支配による賠償請求権」の主張を認めず、この点での合意がなく、無償3憶ドル、有償2憶ドルの合計5憶ドルが賠償金としてではなく「経済協力金」として供与されたことは事実である。しかし、交渉の過程において事実上、元「徴用工」個人の「強制動員」などによる「慰謝料請求権」も補償のテーマとされたことは韓国側の当時の交渉記録にも残されている。現に、廬武鉉政権下の2005年の韓国民官共同委員会でも、慰安婦問題とは異なり、元「徴用工」の補償問題が無償3憶ドルに含まれることを認めているからである。そうすると、共産党がいう、元「徴用工」の個人慰謝料請求権は1965年の「日韓請求権協定」には含まれない旨の主張は、証拠上も明らかな事実誤認である。
次に、(2)の「日韓請求権協定」によっても、元「徴用工」の個人請求権は法的に消滅していない、(3)このことは日本政府も日本最高裁も認めている、との共産党の主張を検討する。確かに、日本政府も日本最高裁も、「日韓請求権協定」によって元「徴用工」の個人請求権が法的に消滅していない事実を認めている。しかしながら、このことは、個人請求権が消滅していないから直ちに日本政府および当該日本企業において法的に損害賠償責任を負担すべきであることを意味しない。なぜなら、元「徴用工」の個人請求権は「外交保護権」の対象にはならないのみならず、「日韓請求権協定」によって、韓国政府は日本政府から無償3憶ドル、有償2憶ドルの合計5憶ドル(当時の韓国政府予算の約1・5倍)にも上る巨額の「経済協力金」を受領しているからである。すなわち、国家予算を上回る巨額の「経済協力金」を受領した以上は、すべて韓国政府の責任において元「徴用工」に対して十分な補償を行うことが可能であったことは明らかである。そうすると、補償を行った時点で元「徴用工」の個人請求権は法的にも完全且つ最終的に消滅していたのである。韓国政府が日本政府から受領した巨額の「経済協力金」を元「徴用工」の補償には使わず、もっぱら韓国の経済発展のために使ったとしても、それは日本政府の責任ではなく、すべて韓国政府の判断であり責任であることは言うまでもない。
共産党の主張は、要するに、個人請求権が消滅していない以上は、短絡的機械的に日本政府および当該日本企業において自動的に補償すべきであるというものに過ぎず、日本政府が「日韓請求権協定」に基づき巨額の「経済協力金」を韓国政府に対して供与した事実を全く無視しており、ひたすら韓国政府に迎合し、証拠を無視した法的にも極めて理不尽な主張であると言う他ない。「日韓請求権協定」2条1では、無償3憶ドル、有償2憶ドルの供与等によって、日韓両国及び国民の間の請求権が完全且つ最終的に解決されたことが確認されているのである。以上の事実関係及び法律関係によれば国際司法裁判所においても日本側の勝訴は確実である。しかし、敗訴を自覚する韓国側は到底応訴しないから、日本の国際司法裁判所への提訴は現実的ではない。したがって、上記大法院判決に基づき、万一当該日本企業の資産が競売換価された場合、韓国に対する最も効果的な日本の対抗策は、25%の制裁関税を手段とする米国による「米中貿易戦争」を見ても明らかなとおり、20%を超える制裁関税や輸入制限などの「経済制裁」を最重要な選択肢とすべきであろう。
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