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2019-01-17 15:47
「トランプ・マルバニー」から学ぶべき点
田村 秀男
ジャーナリスト
ミック・マルバニー米行政管理予算局(OMB)長官がトランプ大統領の首席補佐官代行に抜擢され、名実ともに大統領側近ナンバーワンになった。氏は2カ月ほど前に来日し、産経新聞との単独取材に応じ、筆者は2度にわたって意見交換することができた。彼は普段は目立たずめったにメディアに登場しないのだが、発言分野は本来の分野である規制緩和や財政問題ばかりでない。担当外の対中貿易戦争についてもためらわずに踏み込んでくる。先の大統領選前まではトランプ氏に距離を置いていた「外様」のティーパーティー系下院議員だったマルバニー氏がなぜそこまでトランプ氏の信任を得たのか。氏と対談して分かったのは、「小さな政府」に代表されるレーガン流保守主義に「米国第一主義」を結合させた功績である。
1980年代のレーガノミクスやサッチャーリズムは金融市場の自由化が先行し、実物経済を置き去りにした。対照的に、ウォール街はM&A(企業の合併・買収)などで空前の活況を呈した。カネが実物ではなく金融資産にのみ向かうのであれば、カネは金融市場を堂々巡りする中で株式や債券など資産の相場は膨らみ、カネを増殖させる。金融資本はそこで莫大な売買益や手数料を懐にし、ディーラーや経営トップは巨額の報酬に酔う。企業経営者は収益を自社株買いに投じて株価を押し上げると同時に、配当金や株主資本の上積みを最優先する。長期投資、雇用者への給与など報酬アップは後回しにする。株主利益を高めるために、経営者は人件費の高い国内での生産をやめ、中国、メキシコなど海外に移転する。マルバニー氏の規制緩和や減税策の狙いは「税金を使わずに経済を成長させる」。民間が政府規制に邪魔されずに自由にカネを使わせると、カネが企業と家計の間で活発に動いて新しい価値を創造することができるという極めてシンプルな考え方であり、その適用対象を金融経済ではなく、製造業など実体経済に当てはめた。そのためのイデオロギーというべきが「アメリカ・ファースト」である。歴代の政権が省みなかった中西部の旧工業地帯「ラストベルト」にスポットライトを当てたばかりでなく、内需を支えるモノ、サービス産業を軸にカネを動かすことに成功した。トランプ氏の指導力の下に、マルバニー氏はカネの流れを国内のモノ、雇用や技術に仕向けるのだ。
日本経済がなぜ長期停滞から脱出できないのか。97年度の橋本行革、金融市場自由化(ビッグバン)で金融市場活性化を狙ったのだが、実体経済については緊縮財政・消費税増税との組み合わせで、家計からカネを奪っておいて、カネを返さない。メガバンクはカネを国内に回さず、国際金融市場に流し込む。2000年代初旬の小泉純一郎政権による「構造改革」は2、3周回遅れの「小さな政府」路線である。さすがに増税だけは見送ったが、金融緩和と円安による外需依存で、国内で余ったカネをウォール街に注ぎ込み、米住宅バブルを支えた。このモデルは08年9月のリーマン・ショックで打ち砕かれ、日本経済は先進国の中で最も深刻な打撃を受けた。12年12月に始まったアベノミクスの「3本の矢」は日本銀行の異次元金融緩和、機動的財政出動、規制緩和による成長戦略だが、14年度には消費税増税と緊縮財政を組み合わせ、8.4兆円もの民間のカネを吸い上げて、国債償還に回し、家計に返さなかった。
その結果、デフレ圧力が再燃、家計消費は落ち込んだまま低迷を続ける。国家戦略特区に代表される「規制緩和」は増税・緊縮財政による内需抑制策とのセットなのだから、空砲でしかない。その揚げ句にモリカケという利権疑惑でもみくちゃにされた。やはりカネが実体経済に回らず、マルバニー氏の言う創造性を生まなかったのだ。 日本がトランプ・マルバニー・ラインから学ぶべきは、金融偏重の新自由主義、「小さな政府」ではない。国内の実体経済を刺激し、有り余るカネを国内に回すことだ。「ジャパン・ファースト」を掲げ、そのための規制緩和、財政出動に踏み切る。来年の消費税増税はさっさと凍結すべきだ。
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