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2018-11-10 20:37
韓国大法院「徴用工判決」はウィーン条約26条違反
加藤 成一
元弁護士
韓国大法院(最高裁)は、10月30日、日本による朝鮮半島統治時代に「強制労働させられた」として、「元徴用工」の韓国人4名が新日鉄住金(旧新日本製鉄)に損害賠償を求めた訴訟の差し戻し上告審で、同社に賠償を命じた2審判決を支持して同社の上告を棄却した。これにより、原告の請求通り計4憶ウオン(約4000万円)の賠償を命じる判決が確定した。日本政府は、「元徴用工」個人の請求権問題は1965年の「日韓請求権協定」で解決済みとの立場であり、同社も同様の主張をした。しかし、韓国大法院は、「元徴用工の損害賠償請求権は、不法な植民地支配や侵略戦争遂行に直結した日本企業の反人道的な不法行為によるものであるから、日韓両国間の債権債務関係を政治的合意で解決した日韓請求権協定では消滅していない」との判断を示して、同社の主張を退けた。韓国では日本企業を相手取った同種の訴訟がほかにも14件あり、請求額は計232憶ウオンに上るが、日本側の敗訴が相次ぐ公算が大きい。のみならず、今回の判決により同種の訴訟が新たに数多く提起されることが懸念される。
しかしながら、周知のとおり、日韓両国は、1965年に日韓の国交正常化のために戦後賠償に関する「日韓請求権協定」を締結している。この協定に基づき日本が韓国に無償3憶ドル、有償2憶ドルを供与し、さらに、民間借款3憶ドルの融資を行った。民間借款を加えた合計8憶ドルは、当時の韓国の国家予算3億5000万ドルの2倍を超える巨額である。この結果、韓国は驚異的な経済発展を成し遂げた。協定書2条には、「両締約国は、両国及びその国民の財産、権利、利益及び請求権の問題が、完全且つ最終的に解決されたことを確認する。」と明記されている。したがって、この条項には、明らかに「日韓両国国民個人の請求権」も含まれており、この条項により、「元徴用工」個人を含め、日韓両国国民個人の相手国及び相手国企業に対する財産、権利、利益のみならず、請求権も消滅したと解すべきである。なぜなら、「日韓請求権協定」締結当時、日本政府も韓国政府も共に「徴用工問題」がこれに含まれると解釈し合意しており、無償3憶ドルはそのための資金でもあったからである。
ところが、1991年8月27日柳井俊二外務省条約局長は、参議院予算委員会で「日韓請求権協定は個人の請求権を国内法的な意味で消滅させない。日韓両国間で政府として外交保護権の行使の対象にしないとの意味である。」と答弁した。これは誤解を生じさせる答弁であったと言えよう。なぜなら、これ以降、韓国から個人請求権を根拠とした訴訟が相次ぐようになったからである。仮に、この「柳井見解」によるとしても、「両国間で請求権問題等を完全且つ最終的に解決した」協定書2条の趣旨からすれば、「日韓請求権協定」によって「元徴用工」個人を含め、相手国及び相手国企業に対する個人請求権はもはや消滅し、自国政府に対する個人請求権のみ消滅していないと解するのが相当である。今回の韓国大法院判決の多数意見は、前記の通り、「徴用工の損害賠償請求権は、不法な植民地支配や侵略戦争遂行に直結した日本企業の反人道的な不法行為によるものであるから日韓請求権協定によっても消滅しない。」としている。しかし、仮に、百歩譲って上記の「事実関係」が真実であったとしても、「日韓請求権協定」の締結に当たって、韓国政府は韓国国民を代表して、上記の「事実関係」を把握し認識したうえで、無償3憶ドル、有償2憶ドル、民間融資3憶ドルによる解決を承諾し合意しているのであるから、締結から50年以上経過した現在に至って、国の機関である韓国大法院がこの合意を無効にすることは、後記ウイーン条約26条に定める「条約順守履行義務」に違反し、国際法上も到底許されないと解すべきである。のみならず、韓国大法院の上記「論法」を使えば、あらゆる条約や協定の効力を後からいつでも無効にすることが可能となり、国家間で条約を締結して問題を解決する意義がなくなり、条約や協定による合意が全く無意味になるだけでなく、国際法上の「法的安定性」を著しく阻害するであろう。このことは、韓国政府が事実上「反故」にしている日韓両国間のいわゆる「慰安婦合意」についてもまさに同じである。このような事態が繰り返されれば、国際社会において「約束を守らない国」としての韓国の否定的な評価が定着するであろう。
日本国憲法98条2項の規定と同様に、大韓民国憲法6条にも、「この憲法に基づいて締結、公布された条約及び一般的に承認された国際法規は国内法と同等の効力を有する」と規定され、条約及び国際法規の順守履行義務が定められている。のみならず、韓国も加盟している、条約法に関するウイーン条約26条には「効力を有するすべての条約は当事国を拘束し、当事国はこれらの条約を誠実に履行しなければならない。」と規定されている。韓国大法院にも国の機関として国家間で締結された条約や協定の順守履行義務があることは明らかであるから、今回の大法院判決は、大韓民国憲法6条及びウイーン条約26条にそれぞれ違反し、韓国国内法上のみならず、国際法上も違法無効の判決であると断ぜざるを得ない。したがって、韓国政府は、「日韓請求権協定」に基づき、日本から無償3憶ドル、有償2憶ドル、民間借款3憶ドルの給付及び融資を受け、著しい経済発展を成し遂げたのであるから、すべて韓国政府の責任において「徴用工問題」を解決すべきは当然のことである。万一、韓国政府がこれを履行しない場合は、日本政府としては「日韓請求権協定」に基づき、国際司法裁判所への提訴も重要な選択肢であろう。なお、日本共産党は、今回の韓国大法院判決に関して、前記の柳井俊二外務省条約局長の答弁などを引用し、「日韓請求権協定」によっても、元徴用工個人の請求権は消滅していないから、日本政府は韓国政府と話し合って「徴用工問題」を解決するよう求めている(「しんぶん赤旗日曜版」11月11日号)。これは、「元徴用工」個人の請求権問題等を含め完全且つ最終的に解決した1965年の「日韓請求権協定」を完全に無視し、国際法違反の韓国大法院判決を支持するものであり、前述の理由により重大な誤りであるだけでなく、日本の国益を著しく害する主張であると言えよう。
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