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2018-10-03 11:10
経済成長なき市場原理主義に無力感
田村 秀男
ジャーナリスト
カンヌ国際映画祭最高賞「パルムドール」に輝いた是枝裕和監督の「万引き家族」を見た。印象に残った風景は下町の裏通りにひっそりと佇む古びた駄菓子屋さんだ。にわか妹になった小さな女の子の万引を手助けするお兄ちゃんに、気付いた店主の爺さんがやんわりとさとした。そればかりか女の子にみやげまでもたせた。万引の技をにわか父さんに仕込まれた少年は思う。「お店がつぶれなければ、いいじゃないか」と。大資本のスーパーならびくともしないだろうが、零細な店はどうかと、かなり気になって仕方ない。ある日、駄菓子屋さんが廃屋同然、抜け殻のようになった。「忌中」の札を見て、その字の意味を理解できなかった少年は、そうなったのは万引被害ではなく、爺さんが亡くなったためだとは知らず、激しく動揺する。それを機に、万引を絆にした偽装家族の崩壊が始まる。
映画の時代設定は昭和、いや平成のいずれだろうかと迷ったが、経済の観点からすれば今の時代とみていいだろう。「持つ者」がより豊かになり、「持たざる者」がより貧しくなる。競争社会の勝者と敗者の格差が広がり、底辺の者には行き場がない。市場原理主義は民間の活力を引き出すと評価され、1990年代後半から安倍晋三政権に至るまでの日本の基本路線になっているが、何かが欠けている。経済成長なき市場原理主義は社会の無力感を生むという視点がないのだ。
消費税増税と緊縮財政は日本型市場原理主義の産物である。法人減税と政府財政の支出抑制をセットとし、社会保障財源には消費税を充当する。消費税収は社会保障財源となって社会の弱者や低所得層にも配分されると考える向きが政官財、メディアに多いが、それはカネのやりくり計算である家計簿の発想でしかない。国家の経済成長を妨げ、「万引き家族」を受け入れる経済環境を痛めつける。その症状を悪化させるのが消費税増税である。
2014年度の消費税率の5%から8%への引き上げ後の雇用者報酬と家計消費の前年比増加額から家計の消費税増税分負担額を差し引くと、雇用者報酬が労働需給の逼迫を受けて16年から増え始め、今年に入って増加基調が加速している。しかし、消費税増税負担を考慮すると、増加率が力強さを示す前年比3%以上になったのは今年になってからだ。家計消費のほうは消費税増税後急減したあと、17年からプラスに転じたが、消費税増税負担分を差し引くと、増税前より低いままだ。しかも雇用者報酬とは逆に下向きである。ボーナスは増えたが懐具合は一向によくないと感じる諸公が多いはずである。その心理は簡単にぬぐい去られないので、消費は増えない。消費減は猛暑のせいではない。零細商店もスーパーも「万引き被害」ではなく、消費税に苦しめられている。
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