すでに昨年2月、米ボストンに拠点を置く学術支援団体「Future of Life Institute(FLI)」が、カリフォルニア州アシロマに各分野の専門家を集め、「人類にとって有益なAIとは何か」を5日間にわたって議論し、「アシロマAI原則」23条を公表した。この原則 は、AIの研究、倫理・価値観、将来的な問題の3つ分野に関して、安全性や透明性、プライバシーや人間の尊厳の尊重、利益の共有、軍拡の反対までを網羅したきめ細かい規定だ。最初の授業で私がAI原則の制定を掲げたとき、多くの学生はすぐに意味が呑み込めないようだった。ある学生は「すでに権威のある原則ができているのに、どうして私たちがまた考えなくてはならないのか?」と私に尋ねた。私の答えは明確だった。「人間の知能にとって代わり得るAIの開発は、われわれの生活や生き方そのものにかつてないほどの変革をもたらす可能性がある。専門家だけにゆだねるのではなく、すべての人が関心を持つべきだ。そして、すべての人に発言権が与えられるべきだ。われわれがその先例を作ればいい」。議論の過程で何度も繰り返したのは、世の中がどうなっていくか、どうあるべきかを大上段に語るのではなく、私たちがどうあってほしいかを若者の目で率直に訴えようではないか、との呼びかけである。次代を担う若者たちのアピールである。こんな具合にクラス35人の探求が続いた。