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2018-05-28 19:25
「高プロ制度」導入は日本の生産性革命に不可欠
加藤 成一
元弁護士
労働分野を含む岩盤規制改革を進める安倍政権が今国会での成立を目指す最重要法案の「働き方改革関連法案」は、5月25日衆議院厚生労働委員会において一部修正のうえ与党などの賛成多数で可決された。同法案は、残業時間の上限規制や高収入の一部専門職を労働時間規制の対象から外す「高度プロフェッショナル制度」(「高プロ制度」)の創設を含むものである。立憲民主党や共産党などの野党は、例によって、「高プロ制度」について、「残業代ゼロ法案」、「過労死法案」、「働かせ方法案」などとレッテルを貼り、同法案を廃案にすべく徹底抗戦している。しかし、同法案がこれら野党の言うような国民の利益に反する「悪法」なのかどうかは冷静に考える必要がある。なぜなら、かつて民進党や共産党などの野党は、安保関連法についても「戦争法」「徴兵制になる」、テロ等準備罪(「共謀罪」)や特定秘密保護法(「スパイ防止法」)についても「一般人も逮捕される」「平成の治安維持法」などとレッテルを貼り、国民に対して不安や恐怖心を煽って徹底抗戦したが、そのような事態にはなっていないからである。
日本では、長年にわたって欧米諸国に比べて慣行としての長時間労働が行われてきた。多くの日本企業では報酬の基準として労働の「成果」よりも労働の「時間」が重視されたため、残業を含む長時間労働が常態化し労働の成果の指標である「生産性」が軽視されてきたと言えよう。その意味では同法案が規定する、1か月100時間以内とする残業時間の罰則付きの上限規制は大きな前進であると言える。また、「高プロ制度」の適用についても、すべての労働者に適用されるのではなく、1075万円以上の高額年収者であり、且つ金融商品の開発、ディーリング、企業・市場等のアナリスト、事業・業務の企画運営コンサルタント、研究開発業務など一部の専門職に限定されている。しかも、「高プロ制度」の適用には書面による労働者の同意を必要とし、日本維新の会などとの修正協議で同意の撤回も可能となった。そのうえ、年間104日の休日確保、勤務間インターバル、年1回以上2週間連続の休暇、臨時の健康診断なども選択でき、働き過ぎによる過労死や健康被害を防止するための労働者の健康確保措置も規定されている。
「高プロ制度」が適用され得る上記の各専門職は、時間に拘束される工場労働者とは異なり、いずれも労働の「時間」よりも「成果」が求められる職種であり、いわば自営業ないし自由業に近い。「時間」に拘束されず、自己の能力や才能を存分に発揮し、「成果」に応じた報酬を得ることは、当該労働者にとっても当該企業にとっても大きなメリットがあると言えよう。例えば、株式・為替などの金融商品のディーリング業務では、3時間働いた結果大きな利益を出した労働者と、8時間働いた結果大きな損失を出した労働者を比較した場合に、「成果」に応じた報酬では前者の労働者の方が報酬が多い。しかし、「時間」に応じた報酬では後者の労働者の方が報酬が多くなる。これは明らかに不合理であり、労働者の向上心や勤労意欲を妨げることになり、企業にとっても不利益である。「高プロ制度」では、「時間」ではなく「成果」に応じて報酬が決まるから、労働者の向上心や勤労意欲を刺激して労働生産性を高め、日本の国際競争力の強化をもたらすであろう。
アメリカではすでに、このような労働時間ではなく仕事の成果で報酬が決まる「高プロ制度」と同様の「ホワイトカラー・エグゼンプション制度」が導入されている。この制度では、労働者にとっては労働時間に報酬が左右されないため効率良く短時間で成果を上げようとするため、労働生産性が向上する。ちなみに、2016年のアメリカの労働生産性は、OECD加盟国35か国中の3位であり、日本は21位である(公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較」2017年版)。少子高齢化により生産労働人口がますます減少する傾向にある日本としては、労働生産性の向上による国際競争力の強化、すなわち安倍政権が標榜する「生産性革命」のために「高プロ制度」の導入は必要不可欠である。
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