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2018-05-23 12:14
根強い中国人の西洋崇拝を描いた卒論
加藤 隆則
汕頭大学長江新聞與伝播学院教授
勤務先で「答弁」と呼ばれる卒業論文の聞き取り審査が始まった。私が指導した女子学生4人の論文は概して出来がよかった。最も印象深かったのは、広告専攻の女子学生が書いた論文「国内の平面広告における外国人キャラクターの研究」だ。中国人の西洋崇拝を正面から取り上げた内容だった。平面広告とは、紙媒体で用いられるポスターなどを指す。現代ではネットで流される割合のほうが多い。日本でもしばしば化粧品や洋服、自動車などのコマーシャルに、高級感を醸し出すため白人を起用するケースがある。西洋への潜在的なあこがれに訴える効果を狙ったものだが、彼女の論文を読んで、中国でも、いやむしろ中国の方がその傾向が強いように思った。
彼女は図書館にこもって、地道に、権威ある広告年鑑の過去十年分をめくった。異なる業界ごとに、人物が登場する約千件のサンプルを集め、分析した。そのうち外国人、主として白人が使われているのは毎年ほぼ2割から4割の間で推移し、目立った上昇あるいは下降の傾向はみられなかったが、2016年が37%を超え最高だった。つまり、高度経済成長を続け、生活水準が大幅に上がり、自分たちへの自信を強めている中にあっても、依然として西洋崇拝は根強く残っていることになる。中国は清朝末、西洋の圧倒的な科学技術、生産力を見せつけられ、それまでの夜郎自大な閉鎖体制を打ち砕かれた苦い経験がある。以来、列強に対抗する愛国精神と、劣等感の裏返しである西洋崇拝が混在し、その時々の情勢で、敵視、排外と崇拝、屈服の心理が交錯する複雑な歴史を歩んできた。中国における西洋崇拝はかくも根深い。それだけに、現代社会の中で広告に現れた外国人キャラクターを研究対象として取り上げることは、歴史的にも、現代的にも意味のあることである。
彼女の統計調査によって、興味深い業界の特徴が表れた。広告で最も外国人の起用が多かった業界は不動産と自動車、薬品・保健用品で、それぞれ55、50、50%にのぼった。自動車は外資メーカーが世界最大の市場を目指してしのぎを削っているので理解できる。薬品・保険用品も、健康に対する関心の高まりが、自国製に比べ安全で、有効な欧米製に対する強い信頼を敏感に物語っているといえる。だが、生活の場そのものである不動産に西洋崇拝が最も顕著であることは驚きだった。中国人にとって家は、伝統的な宗族文化を支える家族の絆のよりどころであり、個人の私有財産が十分に守られていない社会主義体制において、帰属感、安全感を得るために不可欠な財産である。しかも、貧富の格差が広がる社会において、重要なステータスシンボルになっている。それだけに、家のあり方は、変動し、流動する社会の真相をはっきりと映し出す鏡になる。かつ、不動産価格は先進国並み、あるいはそれを超える異常な状況が生まれ、とても普通のサラリーマンが一人で購入できる水準ではない。一生の買い物どころか、親子何代にもわたる投資と化しており、より鮮明に消費者心理を投影する商品でもある。
そこに現れた西洋崇拝、西洋式生活へのあこがれは何を物語るのか。習近平総書記が中華民族の偉大な復興を実現する「中国の夢」をスローガンに掲げ、ことあるたびに社会主義の優位に対する自信や中華文明への誇りを口にするのは、むしろ現実社会に蔓延する欧米志向にクギを刺すためだと思えてくる。自信や誇りを過剰に強調するのは、むしろ自信のなさの裏返しである。メイドインチャイナがいかにしっかりした地位を築くべきか。一学生の地道な論考が多くの示唆を与えてくれる。
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