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2018-03-02 06:48
米株価不安はアベノミクスの黄信号
田村 秀男
ジャーナリスト
あれよっ、という間の米国株急落、そして世界同時株安である。米景気は絶好調のはずなのに、「なぜだ」といぶかる向きも多いだろうが、米景気は株高が原動力だ。その歯車が逆に回りだした。株価が低迷するなら米経済が失速する。外需頼みの日本の景気は大きなリスクに直面することになる。米国景気については、日経新聞紙上で専門家やアナリストが小難しい分析をしてみせるが、多くは見通しを間違える。拙論にとっては、米景気は実にシンプルでわかりやすい。株価次第なのだから、株価がわかれば景気も見えるのだ。
2008年9月のリーマン・ショック以降の米個人消費と平均株価の推移をみると、その密接な連動ぶりは一目瞭然だ。統計学でいう相関係数を算出してみると、株価と景気の相関係数の高さに驚かされる。17年末までの期間、株価との係数は個人消費が0・97、設備投資、住宅投資など民間国内投資0・94、そして国内総生産(GDP)は0・97である。相関係数の最大値は1で、すべて夫唱婦随のカップルに例えられるが、米株価と景気はそれに近い。ちなみに日本の場合、株価と個人消費の相関度は米国の3分の1程度と低い。
犬の胴体と尻尾の関係に例えると、景気はボディーで株価は尻尾で、景気が株価を振り回すはずなのだが、実際には逆だと見抜いて実践してみせたのはバーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)元議長である。リーマン・ショックが起きると、同議長は巨額のドルを発行し、金融市場に流し込んだ。株価は押し上げられ、デフレ不況に陥りかけた景気は緩やかに回復し始めた。16年11月の米大統領選で勝利したトランプ氏は大型のインフラ投資や史上空前規模の減税を打ち出すと、株価上昇にはずみがつくと同時に、景気回復も加速した。そこで株価上昇と景気拡大の好循環が生まれたかのように見えたが、株価を動かしてきたのはカネの供給と実質ゼロ金利政策をとったFRBに違いない。FRBは「金融政策の正常化」をめざし、金融の量的拡大を止めた後、金利の引き上げに転じたのだが、輸血で太った患者の血を回収するような仕業だから、利上げという劇薬投与には慎重そのものだった。市場はそれをみて安心し、トランプ相場に沸くが、バブルへの警戒感も次第に高まってきた。
そんな中、賃金の上昇を背景にインフレ期待が高まり、市場金利が上昇し始めると、投資家の多くが不安に駆られて一斉に株売りに転じたのが株価急落の実相だ。米株価は企業収益率からみた適正水準よりも7割以上高いとされるので、下げ圧力が働き、株価の先行きは読みにくい。このまま株価低迷が続けば、個人消費や企業の設備投資意欲が冷やされる。株式主導の米景気が世界を引っ張り、日本は輸出増でその恩恵を受けてきた。アベノミクスは輸出なくして成り立たない。その経済モデルの危機になりかねない。
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