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2017-11-24 14:34
今次ASEAN+3首脳会議の評価
菊池 誉名
日本国際フォーラム主任研究員
さる11月13から14日にかけて、フィリピンのマニラで一連のASEAN関連首脳会議が開催された。同一連の会議については、日本国内でも連日大きく報道されたが、その多くが東アジア・サミット(EAS)にトランプ大統領が欠席したことや、北朝鮮やロヒンギャの問題について話し合われたことばかりに焦点が当てられていた。こうした協議が進展したことは歓迎すべきことであるし、またこれらがASEAN関連首脳会議の一側面を示していることも間違いない。しかし、これら一連の首脳会議、特にASEAN+3(APT)首脳会議は、設立当初から、経済、金融、防災、食料安全保障など様々な分野における機能的協力を推進し、さらに将来的な東アジア共同体構築を目標に、その「主要な手段」となることが首脳間で合意されて本日まで運営され続けてきたものであり、その観点から分析しなければ本質を見誤ってしまうであろう。そこで本稿では、機能的協力と東アジア共同体の観点から、本年のAPT首脳会議の成果を考察し、今後のあり方について若干のコメントを行いたい。
まず、機能的協力について、今次会議ではチェンマイ・イニシアチブやASEAN+3マクロ経済事務局の一層の強化が確認されるとともに、新たに「食料安全保障に関する声明」が採択され、さらに日本からは高齢者の生活向上を図る「アジア健康構想」が提案されるなど、引き続き域内協力の拡大を期待させるものとなったといえる。他に、APT設立20周年をふまえて、首脳間で「ASEAN+3協力20周年に係わるマニラ宣言」が合意されたことも大きな意義がある。というのも、この宣言は1999年の「東アジアにおける協力に関する声明」、2007年の「東アジア協力に関する第二共同声明」につぐ首脳間の包括的内容の合意声明であるが、歴代の声明がAPT域内の協力を推進する基盤となってきたことを考えると、今後の地域協力の進展にとって大きな成果となることが期待できるからである。
次に、東アジア共同体について、今次会議で目立ったのは東アジア経済共同体(EAEC)に向けた動きである。EAECは、2012年にAPT首脳に提出された東アジア・ビジョン・グループⅡ(EAVG2)報告書において提起された構想であるが、丁度同じ時期に、日本主導の東アジア包括的経済連携(CEPEA)構想と中国主導の東アジア自由貿易圏(EAFTA)構想が収斂して新たに東アジア地域包括的経済連携(RCEP)が打ち出されたこともあり、今日まで閣僚・首脳レベルであまり取り上げられることがなく特段の進展がみられなかった。それが今次会議においては、中国の李克強首相が地域統合のためにEAEC構築に向けて進んでいくべきである旨のスピーチを行い、先にのべた「ASEAN+3協力20周年に係わるマニラ宣言」の中でもEAECについて数回にわたる言及がされている。これらの動きから推測すると、今後中国はAPTの中でEAEC構築に向けてイニシアチブをとっていこうとしているものとみられる。この点については、日本として注意が必要になってくるだろう。というのも、近年中国は東アジア運命共同体、AIIB、一帯一路などの地域枠組みを次々と打ち出しているが、そのいずれも、いまのところ透明性や公正性などの観点から懸念が生じているからである。つまり、EAEC構築を目指すこと自体は日本として反対するものではないだろうが、その内容については注意が必要だということである。
以上のように、今次APT首脳会議を考察すると、機能的協力においてはさらなる進展がみられ評価できるが、東アジア共同体においては中国によるEAEC構想への傾注が顕在化し、それには一定の懸念があるということであろう。それではこうした現状の中で、日本はどのような対応をとるべきであろうか。一つには、これまで日本が、EAS設立に向けて各国の対立が表面化した2004年に打ち出した「論点ペーパー」をはじめ、折りにふれて普遍的価値原則を根本に据えた共同体のあるべき姿を提起し、それがもととなって地域統合を推し進めたという経験にならうことではないか。EAECをはじめ、東アジアを対象とした地域統合・協力構想が次々に打ち出されているなかで、再び日本より普遍的価値原則を根本に据えた共同体のあるべき姿を打ち出し、共同体が追求すべき原則を地域で再確認しつつ、同時にAPTの特徴である機能的協力を強化し、この地域の信頼醸成と統合を進展させていていくことが必要である。
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東アジア共同体評議会