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2017-10-18 12:50
人の心理を無視しがちな経済学
田村 秀男
ジャーナリスト
経済学は、人の心理というものを無視しがちである。今回、ノーベル経済学賞受賞が決まった米シカゴ大学のリチャード・セイラー教授は経済学に心理学を取り込んだ行動経済学への貢献が評価された。たとえば株式市場は新たな情報を速やかに織り込んで株式の基本的価値を反映するというのが従来理論なのだが、現実にはそうならない。投資家は将来の収益よりも目先の損失リスクを気にするからだ。そうみると、ばかばかしいくらい当たり前のセイラー理論だが、株価に限らず、われわれが暮らす消費経済も、とんでもない間違った見方によって支配されている。
典型例が消費税である。今回の衆院選挙の最大の争点は結局、消費税増税とその税収の使途になってしまい、衆院解散理由の「国難」の矮小化もはなはだしい。消費税に関する大方の見識そのものがフェイク(でっち上げ)なら、なおさらのことだ。まず、2年後に予定通り消費税率を10%にし、それによる税増収分の一部を教育・子育て支援に回すので、景気に及ぼす悪影響は避けられるという安倍晋三首相の言説はどうか。消費増税に奔走した民主党政権の野田佳彦前首相は「増税しても、税収を社会保障充実に回すので家計の将来不安はなくなり、景気はよくなる」と言い張り、自民・公明を巻き込んだ「3党合意」で増税法案を成立させた。
2014年4月からは消費税率8%に引き上げられたが、持ち直していた家計消費は一挙に落ち込み、いまだに11年の東日本大震災時の水準すら下回っている。経済の机上の計算では増税しても、財政支出をその分増やせば、景気に及ぼす影響はない。実際には14年度一般会計消費税増収分の5兆2000億円のうち9400億円しか社会保障に回していない。安倍首相はその点を意識しているから、上記のような増税後の配分案を示す。だが、仮に増税で家計から巻き上げた税金相当分を全額、教育・社会保障などで家計に還元するとして、理論通りに消費には打撃を与えないのだろうか。実際には、家計は増税前に駆け込み消費に殺到する。そしてその後は、一挙に財布のヒモを締める。教育支援などでカネがばらまかれてもそっくり消費に回すだろうか。
多くの家計は消費の水準を抑制し、政府から支給されるカネの大半を貯蓄に回すのが、消費者心理というものだ。この行動原理は増収分の一部を家計に返す場合でも変わらないはずだ。その場合、財政は緊縮、家計は消費抑制というパターンになり、デフレが続くことに変わりない。希望の党の「消費税増税凍結」はどうか。無用な悪影響を回避するという点では正解だが、代わりに、財政支出を大幅に削減する考え方が底流にある。消費増税をしなくても、社会保障や公共投資をカットすれば、不況になるという定理は事実が証明しているのだから、注意すべきだ。
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