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2017-01-19 21:35
トランプ政権の通商政策「中貨排斥」に踏み切るか
田村 秀男
ジャーナリスト
トランプ米次期政権の通商政策は「中貨(中国製品)排斥」とも言えるほどの激しさを秘めている。端的にそれを示したのは12月4日のツイッター発言だ。トランプ氏は米企業の競争力が損なわれる人民元の切り下げと、南シナ海での巨大な軍事施設の建設を引き合いに出し、「中国が米国に対し、そうしても良いかと尋ねたのか。俺はそうは思わない!」と書き込んだ。米国の次期首脳が経済問題と安全保障問題を並べ立て、中国をやり玉に上げた意味は大きい。
ワシントンの歴代政権は民主、共和各党とも、中国に対しては経済と政治・安保を切り離してきた。中国市場での米企業の権益を重視し、2008年9月のリーマン・ショック後は中国が最大の米国債保有国であることを考慮し出した。09年1月に発足したオバマ政権の国務長官ヒラリー・クリントン氏は真っ先に北京に飛んだが、中国の人権抑圧について口を閉ざした。周辺には「米国債のお得意さんには頭を下げなきゃならないのか」と愚痴をこぼしたと、外交公電のリークサイト「ウィキリークス」によって暴露されている。オバマ政権の対中政策は軟弱路線で一貫してきた。オバマ政権の強硬姿勢は口先だけだと見抜いた習近平政権は着々と南シナ海の埋め立てや軍事施設の建設を行った。しかも、オバマ政権は中国の対北朝鮮制裁回避を容認する始末だ。
人民元については、北京が昨年8月に切り下げに転じたときも批判を控えたばかりか、同年11月に人民元の国際通貨基金(IMF)・特別引き出し権(SDR)組み込みも賛成した。SDR通貨化については、金融市場自由化や人民元の変動相場制移行が条件になっていたが、北京は完全無視、むしろ規制や管理を大幅に強化している。習政権の思いのままに人民元を安めに誘導してきた。半面で、米国債流通残高に占める中国の保有シェアは11年6月の16%をピークに下がり続け、今年9月には10%になり、日本のシェアと同水準になった。ワシントンは中国の米国債売りを気に病まなくても、同盟国日本などが買い支えられる状況に変わった。
カネの切れ目がなんとやら、とでも言うべきか。トランプ次期政権は日本との絆さえ固めれば、中国には言行一致で強硬策をとれると踏んでいることだろう。あとは選挙公約通り、中国からの輸入製品によって奪われた雇用機会を対中制裁関税や人民元切り上げの強制によって取り返すことだ。中国は01年の世界貿易機関(WTO)加盟以降、急速に対米輸出と貿易黒字を拡大させている。1990年代前半の厳しい日米通商摩擦の原因となった対日赤字はもはや目立たない。米国の対中赤字は今、米貿易赤字の5割近くを占める。トランプ氏はビジネスマン上がりだけに、北京が有利なビジネス権益を提供すれば取引に応じる可能性は否定できないが、「中貨排斥」に踏み出せるだけの政治的基盤に立っている。
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