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2016-12-20 16:01
日露首脳会談は重要な第一歩
松井 啓
外交評論家
12月15、16両日に行われた安倍首相・プーチン露大統領の首脳会談は、今後の両国関係進展に向けて重要な一歩を踏み出したものと評価する。戦後70年以上経過しても平和条約がない異常な状態から抜け出す転換点となるだろう。国際関係が変動しつつある中で、日本は経済的、地政学的、安全保障的観点からその立ち位置を認識し、大局的、長期的な国益確保のため毅然とした外交を進めるべき時に至っている。理由を以下に述べる。まず、本年は、英のEU離脱(Brexit)をはじめとする欧州のタガのゆるみ、シリアをはじめとする中東情勢の混迷と難民問題、異色な米国大統領の選出、、中国の更なる台頭等様々な変化があり、来年は欧州ではフランス大統領選挙、ドイツ首相の選挙、移民問題や格差拡大による右翼勢力の拡大等で、世界は更に流動化するであろう。このような変化の波に乗り遅れてはならない。日露両首脳とも自分の時代に平和条約を実現させようとの強い意欲があり、国内の支持率は高く、ここ数年は政権を保持できよう。現在が日露関係を改善する千載一隅の機会である。
北方領土問題解決は現実的でなければならない。4島一括返還という理想こだわることは、百年河清を俟つようなものである。ロシアと協力することは、2014年3月のロシアのクリミヤ半島併合に対する西側の制裁を乱すことになるとの懸念があるが、その西側の結束も緩み始めている。そもそも領土や国境問題解決の標準はなく、それぞれの経緯、民族、宗教、資源、地政学的位置や国力が背景にある。因みに、クリミヤ半島は露に属していたが、フルシチョフ首相時代に当時ソ連邦構成国であったウクライナ共和国に移譲されたもので、ロシアの黒海艦隊の基地があり、住民の90%はロシア人である。半島併合は欧米対露のウクライナを巡る勢力争いの狭間で起こったものである。翻って竹島や尖閣諸島もそれぞれに背景が異なることは言を俟たない。
日本は冷戦時代にも拘らすコスイギン首相時代にはシベリアの石油、森林開発、港湾建設等の大型プロジェクトで協力した経験があり、アフリカなどと比べれば、シベリア・極東の方がはるかにリスクは小さい。240億円の国際協力銀行(JBIC)の融資を含む3000億円の経済協力は、露に食い逃げされると恐れる向きもあるが、日露間の経済協力は経済援助ではなく、双方に利益がなければ進展しない。日本の経済協力に関する8項目提案に対してロシア側から80件ほどの希望が寄せられ、68件の成果文書が取りまとめられたことは、両経済界の関心の高さを示している。
最近の露による択捉島の軍事基地強化は、「一帯一路」を標榜する中国を見据えた戦略的措置であろう。北方領土が日本領となれば露の安全保障を脅かすとの指摘があるが、北海道と目と鼻の先にある4島に新たに米軍基地を作る戦略的価値は乏しい。必要とあれば露軍艦にオホーツク海から太平洋に抜ける出入り口である国後水道の無害通航権を認めればよい。北方領土に関しては、北方4島での双方の法的立場を損なわない「共同経済活動」のための制度作りを協議していくところまで話は煮詰まっている。むしろ歯舞、色丹の2島だけでなく4島に言及していることに注目すべきである。4島水域での漁業面での協力は長年の交渉の結果すでに常態化している。4島陸上での「共同経済活動」は法的に非常な困難な問題を含んでいるが、双方が冷静に真摯に詰めていけばよい。4島の元住民の北方領土自由訪問はこれまでの「ビザなし交流」手続きの簡素化、迅速化で実現可能であろう。
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