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2016-07-21 12:25
中国の「力の支配」の本質
加藤 成一
元弁護士
オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は、7月12日、フィリピンと中国との南シナ海における領土主権や海洋権益をめぐる紛争に関し、中国の主張や行動は国連海洋法条約違反であるとして、フィリピンが求めた仲裁手続きについて、南シナ海に中国が独自に広範囲に設定した「九段線」の主張を全面的に否定する裁定を下した。その理由の骨子は、中国主張の「九段線」内の海域や資源を、中国が歴史上排他的に支配してきた事実を認めるに足りる証拠はない、というものである。
この裁定に対し、中国は、南シナ海については2000年以上前からの「歴史的権利」を有すると主張し、裁定はすべて無効で拘束力はない、と強く反発している。そして、南シナ海での一方的な人工島建設、軍事基地化など、力による現状変更をやめようとしない。しかし、このような自国に有利な判断は最大限利用するが、不利な判断は一切拒否する中国の傍若無人な行動は、国際社会における「法の支配」の破壊であり、国際法秩序に対する重大な挑戦である。中国は「法の支配」を基調とする国連において、主導的立場にあるべき「安保理常任理事国」としての資質を根本的に欠如している、と言わざるを得ない。
このように、「法の支配」を認めず、南シナ海や東シナ海での力による現状変更を企てる中国の「力の支配」は、なにも今に始まったことではなく、中華人民共和国建国以来のこの国の本質である。中国は、1949年の人民解放軍による新疆侵攻、1950年のチベット侵略、1959年の中印戦争、1979年の中越戦争など、軍事力による「力の支配」を繰り返してきた。中華人民共和国建国の父とされる毛沢東は、「共産党員の一人ひとりが、鉄砲から政権が生まれるという真理を理解すべきである。」(毛沢東著『戦争と戦略の問題』邦訳毛沢東選集第2巻341頁)と教示し、そもそも建国を正当化する原理が軍事力による「力の支配」であることを隠そうとしていない。
1966年に中国視察団(「大宅考察組」)の団長として、大森実、三鬼陽之助、藤原弘達、梶尾季之らと26日間中国を視察した評論家大宅壮一は、「中国から学ぶべきものは沢山あるけれども、やはり日本人としては、国の性格、目的が違うんだということを腹に据えて、この国を見なくちゃいかん。特に、一番危険なこの国の基本的な性格というものは、頼るべきは力のみ、武力のみという考え方であり、それが隅々まで浸透しているということだね。やたらにこの国に感心して帰ることは、非常に危険だな」と言っている(猪木正道著『歴史・人物・決断』猪木正道著作集第4巻506頁)。大宅壮一は、当時の中国を視察し、指導者らとも会談した結果、「将来、中国は超軍事大国になる可能性がある」(1966年9月26日付け読売新聞夕刊)と警告していたが、その通りの現実となった。今から50年も前に中国の「力の支配」の本質をすでに見抜いていたのであり、その観察力、洞察力には感嘆する。
今後も中国は、その巨大な軍事力と経済力を背景として、一層「力の支配」を強め、南シナ海や、尖閣諸島を含む東シナ海での力による現状変更の企てを行うことが憂慮されるが、日本としては、「対中抑止力」と「対中外交力」の強化によって、これに対応するしかない。具体的には、米国や東南アジア諸国との連携を強め、中国の常套手段である「世論戦」「心理戦」「法律戦」を逆手にとって、中国の違法性、不当性、理不尽性を全世界に発信し続け、「無法国家」中国を国際社会において孤立化させなければならない。日本国民は、中国の「力の支配」の本質を、しっかりと認識しておくべきであろう。
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