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2016-05-27 06:30
安倍が消費増税再延期を決断
杉浦 正章
政治評論家
伊勢志摩サミットをテコに消費増税の再延期または凍結を首相・安倍晋三が決断する方向が確定的となった。安倍はこれまで延期に否定的な方針を何度も言及してきたが、サミットは大勢として、持続的経済成長のための機動的財政出動や構造改革の断行、新興国に代わって世界経済の牽引役としてその責務を果たす方向へと、大きくかじを切った。これで議長国日本としても、率先して増税延期で同調せざるを得ない流れとなった。サミットの宣言に添う形で安倍は再延期の方針を来月1日の通常国会閉幕までに言明することになる。
延期の幅を来年4月から2年間程度にするか、それともいっそ凍結して、将来の政権に対応を委ねるか、は難しい判断を要することになる。2年間なら、オリンピック景気が高まる時期であり増税の環境はあるが、オリンピック後は不況が訪れるのが常であり、不況を増幅しかねない。加えて3年後には、参院選もあり、安易に現段階で時期を決めることは難しい。安倍はこれまで「リーマンショックや大震災級の事態が生じない限り、消費税は予定通り引き上げる」と言明してきた。しかし「最終的にはサミットを踏まえて適切に判断する」と、ニュアンスを残していた。ところが5月26日のサミットで安倍はそのリーマンショックを例にあげて、「2008年の北海道洞爺湖サミットでは2か月後のリーマンショックを予知できなかった」と指摘し、現在世界経済が置かれている下方リスクの存在を強調した。安倍はグラフを使って商品価格の下落が55%でリーマンショック当時と相似形を形成していることを訴えて、大きなリスクに直面している世界経済を回復軌道に乗せる必要を説いた。そしてそのリスクに立ち向かうために「伊勢志摩経済イニシアチブ」として、機動的財政出動を前面に据えると同時に構造改革と金融政策の「3本の矢」で対応する方針を打ち出した。
これに対してドイツのメルケルが「世界経済の現状を危機(crisis)とまで言うのは強すぎる」と主張した。しかし安倍は、「現状」を「危機」と形容しているのではなく、場合によっては「危機に直面する」と形容して警鐘を鳴らしているのであり、メルケルの主張は見当が外れていた。ただ、このリーマンショック論議は、明らかに安倍が消費増税再延期へと自らの発言を大転換することを意味しており、筆者がサミットをテコに延期に転ずると何度も予言した方向が的中したことになる。この増税延期の根拠については国内で反論が相次いだ。民進党代表・岡田克也は「一体何をもってリーマン・ショック前と似た状況なのか、まったく理解に苦しむ。自分の都合のいいように、消費増税の先送りの言い訳に使えるようにG7の場を利用している、と言われても仕方がない」と酷評した。朝日の編集委員・原真人も報道ステーションで「リーマンショックの時は世界中から需要が蒸発して55%下がったが、今度の下落は石油価格が、シェールガスなどの供給要因で下がったのであり、ショックの意味が違う」と反論した。
しかし、こうした反論には中国の大不況や、産油国の原油安に伴う危機的経済状況への視点が欠け、批判のための批判の色彩が強い。安倍が述べているようにサミットは最終的には「世界経済は大きなリスクに直面しているという認識では一致した」のである。短期的には小康状態にあっても、新興国の凋落はリスクマネジメントが不可欠であることを物語っている。リーマンショック後は、G7だけでは対処出来ない状況に陥り、世界経済の牽引役は中国など新興国に重心が移行した。しかし、今その新興国が不況の底に遭遇して、牽引役を果たせなくなったのだ。G7はこの構造的な状況変化とこれがもたらす危機を認識して、未来を見据えた対応を打ち出すべき時であったのだ。
「公共事業など一時的な景気刺激策を講じても意味がない」と主張する評論家もいるが、民間の需要が自律的に高まるには一定の時間が必要であることは言うまでもない。サミットの打ち出した機動的な財政出動で、当面需要の創出に努めることは、デフレからの完全脱却を確定的なものにするためにも不可欠である。安倍の指摘するように、危機を予見できなかった洞爺湖サミットの轍を踏まないためにも、サミットは転ばぬ先の杖の経済対策を打ち出すことが正しいのである。こうして、安倍が消費増税の延期か凍結に踏み切ることは確定的となった。民進党など野党は安倍の過去の発言との整合性を、参院選挙に向けて突く姿勢だが、政治は危機に対して臨機応変の対応が必要である。状況に応じた柔軟な政策の転換は、とりわけ生き物のように豹変する経済政策に関しては不可欠だ。ありもしない財源があると主張して3年半も日本経済を迷走させた民主党政権の硬直性を、岡田は認識すべきである。今は政策不在の共産党との“野合”にいそしんでいるではないか。まず自分の頭のハエを追えと言いたい。
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