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2016-02-19 06:39
テロでもクーデターでも半島は一触即発
杉浦 正章
政治評論家
漏れた瞬間にぶち壊されるのが全体主義国家のクーデターだから、例え真実であったにしても、現在ではもうつぶされているだろう。私の知る限り、北朝鮮でのクーデター説が最初に公に流れたのは、2月15日早朝の文化放送「おはよう寺ちゃん」だ。ここで経済評論家・上念司が「開城工業団地からの撤退を急いだのは、クーデターの可能性が高まったからだ。韓国政府は危険を察知して一刻も早く脱出させた」と語った。次に掲載されたのが2月18日発売の週刊文春だ。同誌は日本政府関係者が「韓国の情報機関が日本側に〈北朝鮮人民軍の一部に不穏な動きありとの)情報を伝えてきた」ことを明らかにした。政府関係者は「韓国側はなんらかの裏づけとなる情報をもとにクーデターの可能性もあり得ると判断している。開城工業団地には通常時で800人もの韓国人が駐在しているが、不測の事態でこれら駐在員が人質となった場合、韓国政府は手も足も出ない。速やかに韓国国内に退避させるために操業中断という措置に踏み切った」と述べたという。
確かにテレビで見る限り開城からの引き上げを前回と比べれば、前回は乗用車の屋根にまで物資を縛り付けて撤退したが、今回はそうしていなかった。けげんに思ったが、クーデター情報が慌ただしい撤退を強いた可能性は否定出来まい。しかし、ジョージ・ブッシュが名付けた「悪の枢軸国家」である北朝鮮では、1948年の建国以来これはというクーデターは発生していない。むしろ韓国で多発している。なぜかと言えば、すべてにおいて軍事を優先する北朝鮮独特の「先軍政治」にある。軍人は特権階級であり、とりわけ将校は一般民衆に比較して裕福な暮らしを享受できる。そして幼いときから国民は最高指導者を神格化させる徹底した洗脳教育を受けてきている。
しかし、金日成、金正日までと比較して、金正恩が常軌を逸脱した異質な人間であることがどう作用するかを考えれば、いつクーデターが発生してもおかしくないのではないか。北朝鮮の専門家によれば金正恩は経験不足から党幹部や軍幹部に対して強い引け目を感じており、これが100人を超えるという粛正に直結しているという。就任時に80㌔だった体重も、現在では130㌔にまで及んでいると言われる。この太り方が意味するところは、精神疾患の可能性があり、それもそううつ病である可能性が高いという。その薬の副作用もあって肥満しているのだという。病んだ指導者による処刑執行は日常茶飯事であり、朝日新聞によると46階建ての高層ツインタワーに喜んだ金正恩は「同じものを十数棟建てろ」と指示した。資材不足から難色を示した平壌市の建設担当書記は、直ちに処刑されたという。高級幹部らに「処刑してやろうか」と述べるなど、まさにその行動は狂気の全体主義者の特質をすべて兼ね備えている。北朝鮮軍のトップにあたる総参謀長の李永吉、李英鎬、武力相の玄永哲など軍幹部が次々に処刑されている。しかも玄永哲の場合は、居眠りをしたという罪で高射砲を使っての公開処刑だ。この狂気の恐怖政治をとどまるところを知らぬ勢いで続けた場合、いくら先軍政治だからと言って、体制を維持出来るかと言う疑問は生ずる。
一方で韓国政府は、金正恩が、韓国に対するテロやサイバーテロのために力を結集するよう指示し、対外工作機関が準備を進めているという情報があることを明らかにした。2月18日午前、国会での与党セヌリ党との会議で、情報機関、国家情報院などの政府側は「金正恩が(1)韓国に対するテロやサイバーテロの実施、(2)韓国政府の関係者や脱北者、それに北朝鮮を批判する活動をしている人物の毒殺、(3)地下鉄や大型の商業施設などの多くの人が集まる場所や電力や交通などのインフラ破壊などを指示した」と説明した。韓国の諜報員は北の政府に食い込んでいるといわれ、もっぱら電波傍受が中心の日本の情報収集活動とは異なる。信ぴょう性はクーデター説よりこちらの方が高い。したがって開城“脱出”の指示も、韓国人がテロで人質になることを恐れたものという見方の方が理にかなうかもしれない。
大がかりなテロが実行された場合、韓国は報復の攻撃を平壌に対して行う可能性が高く、事態は第2次朝鮮戦争の可能性すら内包していると見るべきであろう。クーデターが発生した場合も戦争に発展する可能性がある。なぜかと言えば、クーデター発生と同時に中国が軍事介入する可能性があるからだ。中国としては何が何でも38度線より防衛線を後退させたくないのだが、その場合米韓は黙っていないだろう。まさに朝鮮半島は一触即発状態に入ったとみるべきだろう。対岸の火災視はできない。テロ国家の牙をむき出しにした北朝鮮が、日本でも在住の工作員を総動員してテロを巻き起こす可能性もある。政府は警戒レベルを上げなければなるまい。
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