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2015-12-01 10:18
法人実効税率引き下げ効果に疑義あり
田村 秀男
ジャーナリスト
長引く消費税増税ショックにチャイナ・リスクが加わって、景気悪化の加速懸念が高まっているというのに、政府・与党の経済政策論議はなんともちぐはぐ。安倍晋三首相が掲げる「名目国内総生産(GDP)600兆円」達成は、眼中にないかのようだ。実質経済成長率は昨年度、今年度前半もマイナスのありさまで、頼みの設備投資も落ち込んできた。消費税増税による失敗を何度も繰り返しながら、日本の指導層にはその反省のかけらもない。財務省、民主党を含む与野党多数、東大教授など主流派経済学者、日経、朝日新聞などメディア多数派も、国際社会で非常識となった「増税=財政再建」論を墨守し、何の責任感も見受けられない。
与党の消費税軽減税率論議は有権者受けを狙ってはいるが、国全体の経済を考慮せず2017年4月に予定通りの消費税増税を安倍首相に実行させたい財務官僚の思うつぼだ。法人税実効税率引き下げのほうは、経済産業省官僚と財界の総意のようだが、これも財務官僚の手にかかると、600兆円の達成を阻害する方向に進んでしまう。日経電子版(2日付)によると、政府は企業の国際競争力を高めるため、国税や地方税から算出される法定上の法人実効税率を17年度に20%台に引き下げる方針だ。そのかわり、企業の設備投資を促す目的で時限的に設けた設備投資減税などの減税額を減らすという。
何のことはない、足し算、引き算で帳尻を合わせるいつもの財務官僚のペースである。一部食料品の税率据え置きの消費税増税と法定法人税率の引き下げの組み合わせで、経済は成長し、脱デフレに寄与するとでも信じているのだろうか。「第1の矢」異次元の金融緩和効果で日銀資金は6月末までに181兆円、9月末までに200兆円以上も増えた。6月末までに企業と金融機関の内部留保である利益剰余金は80兆円増えた。日銀資金の増発に誘導されて円安が進行し、企業は収益を大幅に増やしているが、多くは内部留保となって蓄積する一方だ。財務省の法人企業統計によると、14年度の企業全体(金融機関を除く)の税引き前利益は4兆円増えたが、利益剰余金は26兆円も上積みされた。法人関連税の増加額はゼロだ。
利益剰余金増加はいわばアベノミクスのおかげである。その80兆円のうち半分でも国内向け設備投資や賃上げに回せば、14年度490兆円のGDPはぐっと600兆円に近づくだろう。投資や所得増による波及効果でGDPは大きく飛躍するからだ。設備投資減税は廃止どころか、強化すべきだし、代わりに内部留保に課税するべきではないか。そして、消費税の軽減税率は全品目対象とし、600兆円と脱デフレ達成後に、軽減品目を絞り込めばよい。日本再生の成否は、まともな経済思考に裏付けられた政治判断次第なのだ。
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