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2015-11-25 05:28
中国の「各個撃破」戦略不発の背景:東アジアサミット
杉浦 正章
政治評論家
毛沢東のゲリラ戦略「各個撃破」は中国共産党伝統のお家芸だ。中国は日米両国を「域外国」と決めつけ個別に多数派工作を展開、これが、G20とAPEC首脳会議までは順調にいくかに見えた。ところが、最後の東アジアサミット(EAS)で待ち構えた「安倍・オバマ連合軍」に、首相・李克強が孤立化してあえなく討ち取られるという大誤算を演じた。日本の新聞やテレビの報道はこの肝心の図式を俯瞰して描ききっておらず、群盲が象を撫でる状況であった。EASでは南シナ海の人口島建設をめぐって、対中批判が続出。遅れに遅れた議長声明は中国の人工島造成を念頭に「軍事化」の動きに初めて言及し、「複数の首脳が示した懸念を共有した」と中国を厳しくけん制する内容となった。次回EASは米国で2月に開催することになり、南シナ海をめぐる外交戦は継続する。「各個撃破」は中国国家主席・習近平自らが率先して行った。ベトナムを訪問して、札束外交を展開。外相・王毅がフィリピンの大統領アキノに南沙問題をAPECの議題にしないようにクギを刺した。さらにタイ、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムの外相を自国に招いて会談、“多数派工作”を展開した。この結果APECの共同宣言では南沙問題には言及がなかったばかりか、南シナ海の問題は一切提起されなかった。
しかし、オバマと安倍の狙いは最後の東アジアサミット(EAS)にあった。APECでは深追いしないが、EASでは徹底的にやることを両者はおそらく確認しあっていたのであろう。ここへ向けて根回しを進めた結果、事実上中国がつるし上げにあったのだ。習近平はなぜか出席せず、この結果首相・李克強が打たれ役を演じる羽目となった。会議の冒頭ブルネイが発言を求めて、南シナ海の事態を批判、習近平が札束で「落とした」はずのベトナムも批判を展開。恨み骨髄のフィリピンのアキノに到っては、中国を名指しで「法の支配に基づいて行動せよ」と促した。オバマは「(中国は)航行と飛行の自由や、紛争の平和的解決など国際原則を守る必要がある」とクギを刺した。こうした批判に対して李克強は「域外国は、地域諸国が南シナ海の平和と安定を擁護する努力を尊重すべきだ」と懸命の防戦に出た。これも中国の「各個撃破」の一種で、日米を域外国と断じて会議での差別化を図ろうとしたのだ。しかし、EASの雰囲気は南シナ海は公海であり、中国の領有権など認めない国が大多数だ。「域外国理論」は通用しなかった。
最後に安倍が発言を求めた。通常の会議では日米が早めに発言して会議をリードするところだが、安倍は独特の直感を働かせて、最後の発言を選んだ。批判が多ければ、最後の発言が締めくくりとなって、李克強は言われっぱなしになるという高等戦術だ。安倍は「南シナ海では埋め立てや軍事的利用の動きが今なお継続している状況を懸念する。習近平主席は軍事化する意図はないと発言をしており、留意しているが、発言には具体的な行動が伴わなければならない」と締めくくった。こうして昨年の5月のシャングリラ会議と同様に中国は孤立化の様相を浮き彫りにさせられたのだ。しかし、カエルの面に小便的な色彩があるのは否定出来ない。中国の外務次官・劉振民は会議直後に「習近平主席は軍事拠点にしないとは言ったが、軍事施設を建設しないとは言っていない」と噴飯物の発言をした。軍事施設を建設すれば誰が見ても軍事拠点ではないか。こうした発言をまかり通そうとするのは、依然として中国が独善とエゴ丸出しの国家であることを物語っている。議長国マレーシアが発表した議長声明には、ASEANと中国が協議中の南シナ海での活動を規制する行動規範の早期策定を目指すことがうたわれたが、時期は明示されていない。中国には行動規範が出来る前に埋め立てを完了させたい意図が見え見えである。このためオバマが「来年のEASまでの行動規範締結を望む」とクギを刺したのは当然であろう。
注目すべきはASEAN諸国が11月22日、域内10か国の経済統合を進める共同体を12月31日に発足させると宣言したことだ。6億人超の巨大市場を目指し、域内の経済活性化を図る。非関税障壁の撤廃をさらに進めるなど、今後10年間の統合の進め方を示す「工程表」も採択した。この共同体をめぐって米中がいかに影響力を行使するかも焦点となるが、環太平洋経済連携協定(TPP)で合意した日米は、自由主義経済圏という大枠で歩調を合わせることが可能だ。米国での首脳会議開催は中国に対する強いけん制になることは言うまでもない。来年秋の大統領選挙に向けて、対中強硬路線を取る共和党候補に民主党が巻き返しを図るチャンスともなるだろう。今後中国は南沙諸島での埋め立て工事を継続させ、漁民などを「植え付け」、これを守る軍隊を駐在させるという既成事実化を臆面もなく進めることが予想される。しかし、これにはASEAN諸国の反発は不可避であり、日米豪印が核となってASEAN諸国と同調した対中封じ込めの構図は長期にわたって継続せざるを得ないだろう。こうした国際会議のやりとりを見れば、ろくなテーマもないのに、臨時国会開会にこだわり、安保法案の廃案や修正を主張する日本の野党の「時代錯誤」は、極まった印象を強くするものである。
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