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2015-11-17 05:28
日本はIS絶好の“ソフトターゲット”
杉浦 正章
政治評論家
善良なる大多数の中東諸国の旅行者には申し訳ないが、リュックを背負って新宿を歩いている姿を見かけると、自然と距離を置く自分を発見したりする。パリでのすさまじい同時多発テロが、日本でも起こりうるかといえば、警備が緩やかなソフトターゲットが日本ほど散らばっている国はない。オウムのサリン事件の例を挙げるまでもなく、イスラム国(IS)がやろうと思えばできるのだが、おそらくその余裕はないだろう。ISが日本を狙うモチベーションがまだ現段階では低いからだ。しかし来年の伊勢志摩サミット、2019年ラグビーのワールドカップ、2020年のオリンピックと重要行事がひしめいており、これをISまたはこれに代わるテロリストが狙う公算は否定できない。テロリストには隙を見せないことが重要だ。
ISは明らかにそのテロ戦略をソフトターゲット作戦に転換した。主として空爆でのダメージが大きく、手当たり次第にテロの対象を拡大するしか、自らの存在を誇示する方途がなくなってきたからだろう。イラク軍が指導者バグダディを空爆し、おそらく殺害したことに加えて、斬首人・ジハード・ジョンも空爆で殺害されるなど、有志連合による空爆の効果が表れ始めた。ISは焦燥感があるとみられる。しかしシリアの内戦が続く限り、これに乗じたISが勢力を維持することは間違いない。その内戦にとどめを刺すべく、テロ翌日にウイーンで開催された「シリア問題多国間協議」がアサド政権と反体制派の戦いに区切りをつけ、「移行政権」を6か月以内に作る方針を目標として定めたことは、一るの希望が生じたことを意味する。米露の代理戦争の様相が出ていた内戦が集結すれば、本腰を入れたIS の掃討が可能となるのだ。
だが空爆だけではISを根絶やしにすることは不可能である。所詮、「空爆で衰えさせたISを地上軍によってとどめを刺す」しかないと専門家の多くが見ている。シリア政府軍でそれが可能ならばよいが、少なくとも米仏は地上軍を支援の形で出さざるを得ないだろうとみられている。現状であれば、日本の役割は経済的支援にとどまらせればよいが、地上軍投入となれば、日本に対する何らかの役割を米国が求めてくる可能性がないとは言えない。しかしその場合でも日本は安易に応じてはなるまい。なぜなら米国やフランスと日本ではシリアに対する立場がまったく異なるからだ。とりわけフランスは500万人ものイスラム教徒が定住しており、欧州で最も多数の若者がISに参加している特殊な国だ。加えて欧州諸国とイスラム社会は十字軍以来の「文明の敵」としての戦いを繰り返している。そこへ、のこのこと自衛隊が出動して、たとえ後方兵站活動でも「参戦」すれば、間違いなくテロの標的国家としてのモチベーションは高まる。大きなテロがあれば日本はその対応に追われ、テロ対策への財政支援どころではなくなる。これは世界のテロ対策に取っても大きなマイナスとなる。戦わない戦い方を選択すべきであろう。サソリの穴に手を突っ込むのは避けるべきだ。
日本で起きうるテロをシュミレーションすれば、「弱い脇腹」は腐るほどある。サミット開催を狙ったテロは2005年7月、英国G8でのロンドン同時爆破事件がある。地下鉄の3か所がほぼ同時に爆破され、その約1時間後にバスが爆破され、56人が死亡している。伊勢志摩サミット会場は最も攻めにくい地理上の好条件を備えているが、地下鉄や新幹線はサリン事件の例を見るまでもなくソフトターゲットになり得る。マドリードでは2004年に早朝の通勤列車を狙った「同時多発列車爆破テロ」が発生している。原発がターゲットになる可能性もある。航空機による自爆テロも考えられなくもないが、9.11のように事前の訓練なしに突然狙おうとしても無理だろう。
世界ラグビーやオリンピックまでISがその勢力を維持出来るかと言えば無理だろうと思う。いくら何でも世界総がかりでのIS戦はここ2、3年で終了にこぎ着けるだろうと思われる。ISのイメージの「十字軍」に、日本が入っていないのは歴史的にも地理的にも当然である。したがって、ここはあえてISを強く刺激する手段を避け、米国などから要請があっても集団的自衛権の行使は控えるべきであろう。ISが国家に死活的な影響を与えるものとは思えないからでもある。その点政府・与党が安保法制実現後も「行け行けどんどん」でないことは、賢明である。テロ対策として有効なのは市民の協力である。交番に指名手配中の犯人の写真が貼ってあるが、これと同様に市民による通報制度を作れば、日本のような単一民族の閉鎖的社会的構造では有効に作用するかも知れない。電車にも張ってあるが、警察も「テロの臭いは通報を」と言ったキャッチフレーズで国民に呼びかけるべきであろう。
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