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2015-07-31 06:17
安倍「断定答弁」の奇襲で「徴兵制」を論破
杉浦 正章
政治評論家
首相・安倍晋三の答弁を観察してきたが、7月30日になって突然クリヤー度が増した。どうしてかなと答弁をチェックすると、重要ポイントで全部「断言調」になっている。野党の“巻き込まれ論”や“徴兵制”の主張を、まるで「断定ミサイル」で奇襲、個別撃破し始めたのだ。「全くない」「絶対ない」「断言する」「非常識だ」と断定した。悪い頭を絞ってその理由を考えたら、ハタと思いついた。プラカードだ。国会周辺は野党のデマゴーグ作戦に乗せられて、「徴兵制導入反対」「戦争法案反対」などのプラカードが目立つ。この地雷原を突破するには断定で行くしかないと考えたに違いない。この結果“巻き込まれ論”と“徴兵制”の主張は、公平に見てまず完膚なきまでに押さえ込まれた。残るのは「違憲論」の地雷原だが、これは安倍が地雷を踏まないのに、ゆるキャラの“補佐下手官”が踏んでしまった。ノーテンキに賭博法案にうつつを抜かす“補佐下手官”もおり、「この重要ポイントで安倍の足を引っ張るな」と言いたい。
それではまず「徴兵制」がどうして論破されたかだが、民主党の狙いが邪(よこしま)だったからだ。民主党代表・岡田克也と幹事長・枝野幸男は徴兵制のパンフレットを作ってばらまき、若者に心理的な動揺を与える作戦に出たのだ。これが高校生や大学生に徴兵されるというデマを生じさせ、デモへの参加者を増やした。しかしこの民主党のやり口は、国民を欺くという意味で最も罪深い。だから安倍が「徴兵制は、憲法18条が禁止する『意に反する苦役』に該当し、明確な憲法違反であり、徴兵制の導入は、全くありえない。このような憲法解釈を変更する余地は全くなく、総理大臣が代わって、また、政権が代わっても、導入はありえない」「集団的自衛権の議論と徴兵制を結びつけることは、国際的に非常識だ」と断定したのだ。徴兵制に関しては、岡田も枝野も無知をさらけ出している。事実、世界の徴兵制の動向は、まず米国がベトナム戦争終結後の1973年に徴兵を停止した。続いてNATO加盟国も2000年代初頭にかけて次々と徴兵制を廃止し、イギリス・フランス・イタリア・スペイン・ポルトガル・オランダ・ベルギーなど大半が志願制だ。近代の戦争は、武器も戦闘もハイテク化していて、相応の知識やスキルが求められる。ひげの隊長も「育てるのに10年かかる」と言っている。徴兵制で半ば強制的に連れてこられたヤル気も知識もない連中を人数だけ揃える時代ではないのだ。
今どき徴兵制で陸軍100万人、海空軍20万人もの軍隊を形作っている北朝鮮のまねをして、日本が徴兵制に踏み切る訳がないのだ。イージス艦にど素人は必要ないのだ。分かったか。“巻き込まれ論”についても安倍は、断定調で「他国の紛争、戦争に協力をさせられるという不安だが、それは全くない。今回の法案はあくまでも自衛のための措置で、必要最小限度の措置だ。戦争に巻き込まれることは絶対にないということは断言したい」と言明した。そもそも戦争に巻き込まれるという議論は、安保改定、PKO法案など安全保障問題が国会の俎上(そじょう)にあがる度に、野党が言挙げしたことである。安保の時は全学連、社会党、共産党、労組などが「米軍に基地を提供すれば戦争に巻き込まれる」と主張したが、逆だった。米軍がにらみを利かした結果、ソ連も、北朝鮮も、中国など軍国主義国家は55年間日本に手を出せなかった。これこそが抑止力というものだ。野党はオオカミ少年になるべきではない。重要法案には宍戸梅軒のごとく鎖がまを使わず、一刀流正眼の構えで臨むべきだ。
こうして安倍の断言の前に、野党はしぶとく言い募るが、論破されつつあることは、誰が見ても明白だ。ここまで書いて、夜が明け始めた。新聞うけの音が聞こえたから朝日を見ると驚いた。一面トップに「断言首相」の文字が躍っている。朝日の記者の感性も筆者並みのレベルにようやくなってきたかと思ったが、中身がいけない。筆者のように公平かつ素直ではなく、視線がグレているのだ。グレ少年なのだ。いわく「断定調を繰り返すのは、法案への国民の理解が進まないことへの危機感からだ」なのだそうだ。それでは「戦争法案」を煽る朝日に危機感はないのか。安倍の断定を聞いて「負けそう」と思ったから、一面トップに持ってきたのではないのか。朝日は「問題は法案をめぐるあいまいさについて、首相が説得力ある説明をできていないことにある」のだそうだが、こう書かないと朝日では認められないのだろうか。徴兵制の完全否定はあいまいではない。巻き込まれ論の完全否定も実に説得力がある。批判は自由だが、取って付けたような理屈はいただけない。新聞記者はセンス・オブ・プロポーション(平衡の感覚)が何より大切だ。悪いことは言わない。社が書けと言っても、「うそは書けない」という勇気を養わなければ本当の記者とは言えない。
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