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2015-05-14 11:39
借金が増えないと景気は回復しない
田村 秀男
ジャーナリスト
借金を、少し上品に言えば「債務」と呼び、「金融」とは債務のやりとりで、その場を金融市場と言う。市場を構成するのは、中央銀行が発行する無期限無返済無保証の永久債務証書(つまりお札)、政府の期限付き債務証券(国債)、企業による無期限債務証券(株式)、期限付き債務証券(社債)。さらに債務のやりとりに伴う損失のリスクをカバーする保険、デリバティブ(金融派生商品)もある。アングロサクソン(米国と英国)は、基軸通貨ドル建て中心の債務市場を支配してきた。米国は戦後、世界を圧倒してきた産業競争力が低下し、日本などに圧倒されるようになると、1971年8月15日にドルと金のリンクを断ち切り、ドルを無制限に発行できる仕組みに変えた。
それまでも、すべての金融商品はドルに交換できたのだが、ドルは金の裏付けが必要だった。従って、当局は金融商品が増殖しないよう、規制をかけていた。ドルが金の束縛から開放されることは、すなわち金融市場の膨張を意味した。ニューヨーク・ウォール街とロンドン・シティ主導のグローバル金融資本主義モデルはこうして生まれた。他方で、鉄鋼、家電、自動車など産業競争力は日本などに押されっぱなしで、雇用や賃金水準の低下が進む。そこで、ワシントンは80年代から90年代にかけて、盛んに日本叩きを行ったが成果は出ない。90年代半ばの情報技術(IT)革命は、産業全体の雇用・賃金の底上げには結びつかない。
そんな中、2001年9月11日の同時中枢テロが起きた。家計消費が7割を占める米国経済を何とか支えてきた金融市場の中心がテロ攻撃に遭い、大きく揺れた。そこで当時のブッシュ政権が目をつけたのが、住宅市場である。金融のからくりを使って家計による借金消費を容易にさせる。そのための規制緩和はクリントン前民主党政権当時、ウォール街出身のルービン財務長官が実行済みだ。低所得者向けの「サブプライムローン」の証券化商品も登場して、住宅市場に巨額のカネが投入されるので、住宅相場が上がる。銀行は値上がった分を前貸ししてくれるので、消費者は消費に耽る。
この仕掛けは、住宅相場が下がり出すと破綻した。サブプライム危機、リーマン・ショックと続く。大恐慌になるのを防ぐ手段はただ一つ、連邦準備制度理事会(FRB)がカネ(永久無返済債務証書)を刷って金融市場に流し込んで、株価を引き上げてきたが、景気回復力は鈍かった。何よりも家計が債務を増やさないことには、消費が活気づかないのが米国だ。それが、最近になってようやく家計債務の伸びがプラスに転じた。わが日本では、日銀がいくらカネを刷っても、銀行は融資を増やさない。景気がよくならないはずだ。
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