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2015-03-10 06:54
王毅外相に外交上の“良識”を問いたい
杉浦 正章
政治評論家
またまた中国外相・王毅が君側の奸臣(かんしん)のごとき発言を繰り返している。一連の発言を分析すると、戦後70年の歴史認識問題ではどうも王毅が、対日舌戦の急先鋒になる役割を果たしているようである。王毅は「日本おとしめ係」だ。先に国連で「過去の侵略の犯罪をごまかそうとする者がいる」と首相・安倍晋三を狙い撃ちにしたが、今度は「70年前、戦争に負けた日本が、70年後に再び良識を失うべきではない」のだそうだ。明らかに全人代向けに「反日」のうけを狙っている。中国の有名なことわざに「人を責むるの心を以て己を責めよ」があるが、その知性をいささか疑いたくなる王毅は、自分の国のことわざから勉強しなおした方がいい。ことわざは「人はどんな愚者でも過失を理解した上で責めるものだ。反面聡明なる者は自分の過去に寛大になる。だから他人を責めるような心で自分を責め、自分を許すような心で他人を許せ」と言っているのだ。
しかし王毅は真逆である。中国にはまるでにわかな成金のような傲慢な政治家が多いが、王毅はその筆頭右代表だ。先の安倍狙い撃ち発言の際には「盗っ人猛々しい」と形容したが、今度はその二乗である。こともあろうに一国の外相が他国の首相に対して「胸に手を当てて考えよ」はあるまい。中国こそ胸に手を当てて考えれば、戦後に自分が行ってきた血みどろの戦史を思い浮かべ、通常人なら血が凍りつくだろう。ウイグル侵攻、チベット侵攻、朝鮮戦争に介入、インドに侵攻して中印戦争、中ソ国境紛争、中越戦争と血塗られた好戦的国家の姿が思い浮かぶはずではないか。王毅は「70年前、戦争に負けた日本が」というが、日本は国民党政権に負けたのであって、対日軍事行動を避けて逃げ回っていた中国共産党軍に負けたのではない。歴史認識の初歩が唯我独尊・我田引水すぎて間違っている。
王毅は「70年後に再び良識を失うべきではない。歴史の重荷を背負い続けるのか、過去を断ち切るのか、最終的には日本が選択することだ」と言うが、70年後の今現在、良識を失っているのはどの国か。南沙諸島に軍港を作り、飛行場を作って自国の海洋進出の野望を果たそうとしている国はどこか。東シナ海でも日本の領海領空に土足で踏み込む国はどこか。王毅は南シナ海に関して「自分の庭に建てているものにとやかく言われる筋合いがない」と開き直っている。中国海軍少将にいたっては「中国が遠洋や南シナ海に向かって進むことにあれこれ言うべきでない」と発言、まるで昔の日本軍のような聞く耳持たぬ横柄さだ。この「とやかく」と「あれこれ」発言は、問答無用の軍国主義そのものではないか。
王毅発言が「良識」を欠き、礼を失している最大のものは、中国が9月3日の「抗日戦争勝利記念日」に、北京で行う「反日軍事パレード」に安倍を招待するかどうかを記者会見で聞かれて、「関係するすべての国の指導者を招待し、誠意さえあれば誰であれ歓迎する」と発言したことである。本来なら一国の首相を招待する場合は、綿密に外交ルートを通じて調整した上で発表すべきものだろう。それを記者会見如きで「招待する」はあるまい。それも「誠意さえあれば」とは何事だ。要するにに、安倍に対して9月3日に「ひれ伏しに来い」と言っているようなものだ。もとより安倍は行くべきではないし、オバマにも「日米の信頼関係の根本を崩す。参列すべきではない」と申し入れるべきだ。9月3日はプーチン、朴槿恵の二人だけが参加する「寂しいもの」になるよう、今後陰に陽に世界各国に根回しをすべきだ。要するに「歴史認識戦」が始まっているのであって、このプロパガンダ合戦は躊躇せずに反論を加えるべきことであろう。官房長官・菅義偉が王毅の「条件付き安倍招待」について「一外相の発言であり、政府の立場でコメントは控える」と軽蔑的不快感を示したのは適切である。「良識」発言に関してはできれば「これはそのままお返ししたい」と言えばよかった。
中国一辺倒で5回も訪中しているメルケルがようやく日本に来た。先進7か国の最後の訪問だ。講演で「 ドイツは過去ときちんと向き合った」と述べたが、日本はきちんと向き合っても、フランスと違って中韓両国の指導者が自国民に媚びを売って、土俵を広げてしまうのだ。莫大(ばくだい)な政府開発援助(ODA)を行って、近代国家への道筋を付けても中韓の指導者はすぐに忘れてしまうのだ。対中経済関係維持に全力を傾注せざるを得ないメルケルがせめて「東シナ海と南シナ海における海路・貿易路の安全が海洋領有権を巡る争いで脅かされている」と中立的立場を取っただけでもプラスだと思えば良い。中国に経済的に縛られているドイツにはもともと期待しない方がよいのだ。
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