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2015-02-20 06:51
やぶ蛇となった公明の周辺事態法存続主張
杉浦 正章
政治評論家
公明党はやぶをつついて蛇を出した結果となった。安保法制に当たって同党が存続を主張した周辺事態法を存続する代わりに同法から「周辺の概念」を除去する方針を政府が2月19日に示したからだ。このいわば周辺事態法骨抜きの方針は昨年10月に決めた日米防衛協力の指針(ガイドライン)の中間報告の核心部分であり、この概念が安保法制の核として浮上・挿入されたのだ。おそらく政府は周辺事態法を廃止する場合には、恒久法に挿入する予定であったのだろう。ところが公明党が周辺事態法に固執して、安保法制が座礁する恐れが出てきたことから、窮余の策に打って出たものとみられる。公明党幹部は「自衛隊の活動が際限なく広がる」と反発しており、20日の与党協議の焦点となる。そもそもガイドラインは日米同盟の公約であり、これに反対するなら公明党は昨年10月の時点で連立を離脱するべきであった。公明党代表・山口那津男は窮地に陥ることになる。
どう見ても政府が提示した安保法制最大の焦点は周辺事態法の改正に絞られるが、多くのマスコミ報道がこれを見抜いていない。政府は周辺事態法の改正に関して、後方支援の対象を「日本の平和と安全のために活動するアメリカ以外の国の軍隊にも広げ、今の法律で日本の領域や公海上でしかできないとしている支援を、外国の領域でも行えるようにする必要がある」と説明している。具体的には同法が冒頭の目的に掲げる「そのまま放置すれば、日本に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等、日本周辺の地域における日本の平和及び安全に重要な影響を与える事態」の「そのまま放置すれば、日本に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等、日本周辺の地域における」を削除する形となる。
これはガイドライン中間報告でこれまであった「周辺事態」の概念をとり外したことに伴う法制化措置である。この日米の狙いは周辺事態となる場合の後方支援はもちろんのこととして、例えば南シナ海で中国が武力行使に出て紛争が生じ得ることを想定、自衛隊の米軍支援を容易にしたものに他ならない。日本が身動き出来なければ、中国は戦略上の優位に立つことになるからだ。公明党の主張は周辺事態法をそのまま存続させて、日米軍事協力拡大に歯止めをかけようという狙いであった。しかし政府としては安倍の積極的平和主義推進の観点から集団的自衛権の行使容認を推進してきており、自衛隊の活動範囲の拡大は安保法制の基本中の基本である。周辺事態法を廃止するなら自衛隊活動範囲の拡大を恒久法に挿入する方針であったに違いない。政府は19日の説明で「日本の平和と安全を確保するために行う後方支援は、周辺事態法を改正して対応する一方、これまでそのつど特別措置法を作って対応してきた国際社会の平和と安定のために行う後方支援は、恒久的な法律・恒久法を新法として制定する」との方針を提示している。このうち山口が反対してきた恒久法の制定で政府は、「多国籍軍を含めた他国軍への後方支援や、PKOの枠外の人道復興支援活動などを盛り込む方針」と伝えた。同法に関しては安倍の意志が極めて強いことから、公明党は国会の事前承認など条件闘争に転換しつつある。
しかし周辺事態法については、公明党の予想を大きく上回る方針提示であり、おそらく20日の会議などで「周辺事態の概念がなくなれば自衛隊の活動に地理的な制約がなくなる」など強く反発の動きに出ることが予想される。安倍の胸中には昨年7月1日の閣議決定の武力行使の3要件にある「日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされる場合」がホルムズ海峡の機雷封鎖や南シナ海で発生する紛争に相当するという判断があり、これが大きく作用して周辺事態法の改正案となったに違いない。したがって安倍が譲歩する可能性は少ない。日米豪3国は昨年の首脳会談で安全保障上の結びつきを一段と強化しており、3首脳は日本が後方支援を米軍だけでなく、オーストラリア軍に対して行うことも、海洋進出を狙う中国へのけん制として不可欠であるとの判断がある。自民党は3月中に安保法制の与党案をとりまとめる方針である。自民党副総裁・高村正彦は3月26日に訪米、座長を務める安全保障法制を巡る与党協議について、アメリカ政府の関係者に説明し、日米同盟の果たす役割を改めて確認したい考えである。ということは、日程を区切っていることになり、公明党はガイドラインに強い反発をしていないことから、最終的にはなんらかの譲歩に出ざるを得ないとみられる。
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