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2014-12-12 21:44
東アジア共同体形成からみる今次APT首脳会議の評価
菊池 誉名
日本国際フォーラム主任研究員
さる11月に、ミャンマーのネピドーで一連のASEAN関連首脳会議が開催された。ASEAN関連首脳会議については、本邦でも毎年必ず報道されるようになったが、そのほとんどが、日中間の政治的な対立に焦点をあてた否定的かつ断片的なものばかりで、会議の具体的な中身や成果を取り上げているものは少ない。しかしながら、これら一連の首脳会議、特にASEAN+3(APT)首脳会議は、設立当初から将来の東アジア共同体構築を目標に、「その主要な手段」となることが首脳間で合意されて本日まで運営され続けてきたものであり、その観点からの評価を行わなければ本質を見誤ってしまうであろう。そこで本稿では、東アジア共同体評議会事務局長として、APT首脳会議の動きに注目してきた者の立場から、本年のAPT首脳会議における成果と課題を考察し、今後のあり方について若干のコメントを行いたい。
まず、今次首脳会議の主要な成果としては、2012年に提出された東アジア・ビジョン・グループⅡ(EAVG2)報告書のフォローアップが行われ、各国首脳より同報告書の提言をもとに今後協力すべき分野やその方向性についての言及がなされたことがあげられる。日本は、安倍総理より、EAVG2報告書の提言を受けて、今後高等教育分野の協力や公衆衛生サービスの改善などに特に貢献していくことが表明された。EAVG2報告書は、初めて東アジア共同体構築を明確に打ち出したEAVG1報告書ほどのインパクトを世間に与えなかったものの、その代わり、経済、金融など具体的分野における一層の協力に向けた提言が打ち出されていた。上記の日本の例のように、この度の首脳会議においては、この提言をもとにして、各国が東アジアの地域協力における具体的な行動を起こすことが表明されたということは、今後の地域協力の進展にとって大きな成果となるであろう。
他方、課題として浮き彫りになったのは、中国による新たな地域秩序形成に向けた動きに対して、未だ十分な対応が取れていないことである。例えば、中国の進出が著しい南シナ海問題に対しては、首脳会議において「法の支配」による解決を訴えているものの、その目途は全くたっていない。また、必ずしも今次APTの主要な議論に上ったわけではないが、中国がこの地域の新たな金融機関として設立しようとしているアジア・インフラ投資銀行(AIIB)については、大きな懸念がある。というのも、同銀行は資本金の半額が中国の出資になる見込みであり、中国の意向を反映したものになるという危険性があるからである。しかし、すでにASEAN各国すべてより同銀行に参加することが表明されており、今後ASEAN各国が、中国の意向に逆らえなくなるような事態に陥るのではないか、それが地域統合にも多大な悪影響を及ぼすのではないかと懸念される。こうした中国による秩序形成の動きは、2007年のAPT首脳会議で採択された「第二共同声明」において、東アジア共同体は「域内の平和、安定、民主主義及び繁栄を達成するために国際的に共有された価値を支持する」との、普遍的価値を追及すべきという原則を阻害しかねない事態となっている。
このように、今次のAPT首脳会議においては、地域協力および統合の確かな進展がみられる一方で、追求すべきである普遍的価値とは相容れない中国による新たな秩序形成の動きも顕在化している。それではこうした現状の中で、日本はどのような対応をとるべきであろうか。一つには、東アジアサミット設立に向けて各国の対立が表面化した2004年に、日本が東アジア共同体のあるべきすがたを明確にした「論点ペーパー」を打ち出し、それがもととなってこの地域の統合を推し進めたという経験にならい、再び日本より普遍的価値原則を根本に据えた共同体のあるべき姿を打ち出すことが必要ではないか。そうして、共同体が追求すべき原則を地域で再確認しつつ、同時にAPTの特徴である個別分野、いわゆる機能的分野の協力、統合の進展をASEANと協力しながら強化し、この地域の信頼醸成と統合を進展させていていくことではないだろうか。
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