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2014-12-01 06:00
海江田が党首言論戦で“不振”
杉浦 正章
政治評論家
NHKの党首討論を録画して綿密に分析したが、野党は肝心の民主党代表・海江田万里がろくろく理論武装もせずに臨んだとみえてめろめろ。焦点の雇用を巡って首相・安倍晋三から完膚なきまでに討ち取られてしまった。海江田発言は他党からも攻撃の対象になって、昼間視力が衰えるフクロウがほかの鳥からいじめに遭っているのとそっくりで、可哀想になった。民主党も運が悪い。党首が冴えないために、絶好のチャンスを生かせないまま選挙に突入することになる。新聞報道はありきたりのことしか伝えないが、公平に分析すればするほど、海江田の「訴求力欠如」が露呈する。討論の焦点はアベノミクスの是非に集中した。その中のキーポイントが景気の動向を占うメルクマールの雇用問題だ。安倍は「政権発足後100万人の雇用を作った。非正規社員が増えたが、民主党時代は雇用そのものが減った。有効求人倍率は1%を越えた」と指摘した。これに対して海江田は「安倍さんは自分の都合のいい数字ばかり話して、都合の悪い数字は言わない。1%と言うが正規の社員で比べると、有効求人倍率は0.68%にとどまっている」と切り返した。ところが待っていましたとばかりに安倍は「それでも過去最高だ。正社員の求人倍率0.68%は過去最高だ」と反論した。くしゅんとなるかに見えたが海江田は「増えたのは非正規であり、正規は9万人減少した」と噛みついた。しかし安倍は「正規については7-9月は10万人増えた」とやりかえした。すさまじい言論戦であったが、ここで海江田の完敗が確定。海江田は経済評論家だったにしては、理路整然と数字を間違って、数字に弱いところを暴露してしまった。
一方国内総生産(GDP)について海江田は「あまり民主党のことを批判するのはやめた方がいい。民主党政権はGDPが5%伸びている。安倍政権は1.7%だ。これから期待できると言うが大きく間違っている」と開き直った。ところが横から公明党代表・山口那津男が「2008年のリーマンショックのどん底から這い上がるために我々の(自公)政権が経済対策を打った。その効果が民主党政権時代に現れただけだ。民主党政権は配布(ばらまき)に力が入って、経済成長には力が入らなかった」と指摘して、勝負ありとなった。民主党の公約にある「分厚い中間層」を海江田は繰り返し強調したが、これも維新共同代表・橋下徹が「分厚い中間層と言うが、財源については何も言わない」と民主党政策の無責任さを指摘。たしかに「分厚い中間層」といってもその道筋は全く提示しておらず、「財源はいくらでもある」として政権を取ったでたらめ政策の過去を“継承”している。その証拠に公約では悪名高き最低保障年金の創設を財源のめどもなく再び表明、やはりばらまきの指摘を受けた農家に補助金を配る「個別所得補償制度」も維持したままだ。
外交・安保問題で海江田は 集団的自衛権の行使を限定容認する7月の新たな政府見解について、「立憲主義に反する。許せない撤回すべきだ」と強く撤回を求めた。これには橋下が「憲法解釈の変更は内閣でも出来る。合憲か違憲かは最高裁が判断する」と、3権分立のイロハを教える始末。確かに民主党は公約で立憲主義に反すると主張しているが、政府の新見解は、従来の見解とも一定の整合性を維持した憲法解釈の変更であり、これを立憲主義に反するというのは無理筋の話だ。だいたい民主党の公約は「集団的自衛権の行使一般を容認する憲法の解釈変更は許さない」としただけとなっている。党内右派は行使推進論であり、行使容認是非の判断は示せないのが実情である。
最後に噴飯物の発言は海江田が、アジア太平洋経済協力会議(APEC)での日中首脳会談の実現について「私が訪中したとき首脳間で協力すべきだと言った。それが実現したのは喜ばしい」と述べた点。まるで海江田が取り持ったから首脳会談が実現したかのような口ぶりだが、認識が根本的に間違っている。民主党側は当初、国家主席・習近平との会談を要請していたが、会えたのは中国共産党の序列5位・中央政治局常務委員の劉雲山だけ。自民党副総裁の高村正彦は序列3位、社民党の訪中団ですら4位の幹部と会談しており、海江田が取り持ったからといって、首脳会談が実現できる性質のものではあるまい。要するに、安倍の急襲解散で民主党内は態勢が整っておらず、肝心の論争でボロが丸出しになった事を意味する。背後に党首に完璧な資料を渡す能力のない民主党の体たらくを感じさせる。これでは自民党へのアンチテーゼどころではあるまい。
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