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2014-10-27 06:52
「遺骨ペース」を「拉致ペース」に戻すのがポイント
杉浦 正章
政治評論家
拉致問題を巡る日朝交渉でどうしても解せない部分があった。それは5月のストックホルム合意の際、「夏の終わりから秋の初めにかけて第1次回答」としてきたにもかかわらず、北朝鮮が先延ばしに出たことである。なぜ出すと言っていたものを出さないかというと、事前の調整で日本側が出されては困る内容であったことが分かってきたのだ。その内容とは拉致問題にほとんど触れてないで、日本人妻や遺骨の調査結果を出そうとしたのだ。政府筋によると、「こんな報告は受け取れるわけがない」と言うやりとりが続いた模様だ。その結果、本国と日本側の間に立って音を上げた国交正常化交渉担当大使・宋日昊(ソンイルホ)が、9月29日の会談で外務省アジア大洋州局長・ 伊原純一に「調査の詳細な現状について、平壌に来て特別調査委員会のメンバーに直接会って話を聞いてほしい」と提案するに到ったのだ。要するに、「上に直接聞いてくれ」とたらい回しをした形だ。このいきさつから見れば、きょう27日に平壌入りする日本政府訪朝団が、拉致問題で具体的な結果を持ち帰るのは極めて困難視される。首相・安倍晋三の「拉致問題解決が最優先」という路線に戻せるかが焦点となる方向だろう。
拉致問題に関して北朝鮮側は、かねてから日本政府が拉致被害者と認定した安否が未確認の12人について、「8人死亡、4人は入境せず」と説明してきている。しかし8人の死亡は被害者の遺骸が一切存在しておらず、北朝鮮はこれまで6人の遺骨は豪雨で流出したと説明。提供された二人分の遺骨とされるものからは、本人らのものとは異なるDNAが検出された。解せないのは、20代~30代の若さでガス中毒、交通事故、心臓麻痺、自殺など不審な死に方ばかりである。入境未確認としている4ケースのうち、曽我ひとみさんと一緒に拉致された母親ミヨシさんは、年配であるから拉致の途中で「処分」された、と最初から報道されてきた。このいったん「死んだ」とする者を「生き返らせる」ことはまずあり得ないことであろう。
要するに、日本側が「出せ」と要求しても、出すに出せない状況であろうと推察される。だから北が当初から「特別調査委員会」の4つの分科会を、〈1〉日本人遺骨、〈2〉残留日本人・日本人配偶者、〈3〉拉致被害者、〈4〉行方不明者、の順序としたのは、「遺骨」を最重要の分科会と位置づけたいのだ。北が遺骨にこだわるのは、「カネ」になるからだろう。米兵の遺骨採集で、米政府は1柱あたり1万ドルから3万ドル支払っているといわれる。交渉の過程で一番容易に調べられる遺骨等についての報告を「夏の終わりから秋の初め」にしようとしたに違いない。一方日本政府は、言うまでもなく拉致を最優先課題と認識しており、この認識のずれが、第1次報告をめぐって相克を生じさせたに違いない。では、安倍が遺族会の反対の主張を押し切って代表団を派遣するという外交上の大方針を選択した背景は何か。安倍自身が「拉致問題解決が最優先という方針を伝えるのが目的だ。派遣しないことによる今後調査できなくなるリスクを考えた」と言明している。これは北の「遺骨ペース」を「拉致ペースに」に引き戻すのが目的だ。12人は望みが少なくても、警察庁が拉致の疑いあがあるとする行方不明者883人での、進展は期待されるところであろう。
日本側は特別委側との会談で、拉致問題の解決を最優先する方針を、まず伝達することになろう。特別委トップの徐大河や拉致被害者分科会の責任者と会って、調査がどの程度進んでいるか、どのような作業をしたか、今後の調査の進め方などを質すことになろう。5月の合意以来安倍は「これからが正念場」と述べてきたが、その正念場の第一段階が2日間の会談となる。日本側としては北から「誠意」を引きだす事に主眼を置いている。北は拉致被害者12人について「準備段階」とか「初期段階」と言い逃れをしているが、2002年の小泉訪朝以来、12人については調べが完了しているはずであり、そこからいったんは「8人死亡、4人入境せず」の結論が出されているはずだ。これを覆す新展開があるかどうかについては「極めて難しい」と言わざるを得ない。政府も拉致被害者に関して具体的な調査結果が得られる見通しはほとんどないとしている。12人の内1人でも、数人でも、生存者があれば、それを北が“活用”しないことは現段階ではあり得ないのだ。実際に出すに出せないのが現状と見るべきであろう。
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