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2014-07-25 06:21
日米対中国の対峙は長期化の様相
杉浦 正章
政治評論家
中国がなにやら大人しい。一見、孤立を恐れ軟化し始めたかのようにも見える。南シナ海での石油掘削も撤収した。中国国家主席・習近平は就任以来、尖閣国有化と首相・安倍晋三の靖国参拝を根拠に日本軍国主義の復活を主張して対日包囲網作成に余念がなかったが、挫折を感ぜざるを得ない状況に見える。対日包囲網どころか安倍に対中包囲網を作られ、宣伝戦での敗北感をひしひしと感じていることは間違いないだろう。当面8月の東南アジア諸国連合(ASEAN)フォーラム、11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を控えて、これ以上の孤立は避けたいという姿勢がありありと伝わってくる。しかし中国の海洋進出への“固執”が変わったわけではなく、日米を軸とする対中対峙は長期化する流れだろう。習近平と安倍との宣伝合戦は、オーストラリア首相アボットの「判定」で安倍の“勝利”が明確になった。それを象徴するのがアボット発言だ。アボットは記者会見で「日本は1945年から一歩一歩法の支配のもとで行動してきた。日本を公平に見るべきであり、70年前の行動ではなく、今日の行動で判断されるべきだ」と言いきった。まさに習の歴史認識による対日批判が否定され、戦後の日本の平和主義が理解された瞬間だ。アジア諸国も同様に感じていることである。
習を初めとする中国首脳と安倍との“言論バトル”はすさまじいものがあった。習が欧州歴訪で「日清戦争末期の1895年に尖閣諸島を奪い取られた」と言えば、李克強首相もドイツで「日本が盗んだ領土を中国に返還することを盛り込んだ『カイロ宣言』の履行を明記した『ポツダム宣言』は、戦後の世界平和の保証であり、これを破壊、否定してはならない」と強調。まるで盗人扱いで世界世論に訴えた。ボルテージは昨年末の安倍の靖国参拝でさらなる盛りあがりをみせた。今や主従関係にあるような韓国大統領・朴槿恵とともに歴史認識の合唱である。これに対して安倍は地球儀俯瞰(ふかん)外交を1月の施政方針演説で表明、地道かつ頻繁にASEAN諸国やヨーロッパを回った。自由と民主主義で価値観を同じくする国々に対して、力による現状変更を目指す中国を批判、国際秩序を維持するための法の支配の必要を訴えたのだ。9月には訪問国が49か国に達する見通しで、短期間にこれだけのトップ外交を展開した首相は居ない。こうした中で習近平が大誤算をした。5月2日にベトナムと領有権を争う南シナ海の西沙諸島で石油掘削を強行したのである。ベトナムは激怒し、国内世論は反中国で固まり、中国企業へのデモが頻発。首脳から「戦争も辞さぬ」という発言が飛び出した。ベトナムは尖閣諸島での日本の例にならって船舶にビデオカメラを持たせ、中国船の傍若無人の振る舞いを世界に向けて発信した。
この事件は、安倍が各国を回る度に強調してきた「力による現状破壊」を紛れもなく立証する結果となった。安倍は5月30日の第13回アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)で基調講演を行い、中国の南シナ海進出を念頭に「日本は,ASEAN各国の海や空の安全を保ち、航行の自由、飛行の自由をよく保全しようとする努力に対し、支援を惜しまない」と発言。多くの国が拍手でこれに答えた。中国軍人がマニュアル通りの軍国主義批判を繰り返したが、会場の空気はアボットが指摘するとおり、「歴史より現実」の重視であった。中国は完全に孤立したのだ。これに追い打ちをかけるように、安倍は6月のサミットで「東シナ海及び南シナ海での緊張を深く懸念。国際法に従った平和的解決を支持。北朝鮮の核・ミサイル開発を強く非難」する宣言を発するのに成功した。米国も日本の立場を支持した。7月の米中戦略対話では、習の主張する「新型大国関係」について国務長官・ケリーは「習氏が何度も大国関係の新しい形について話すのを聞いた。だが新しい形とは言葉ではなく、行動によって定義される」と一蹴した。対話は決裂といってもよい状況であった。一方で米上院本会議は7月10日、東シナ海と南シナ海における中国拡張主義を非難する決議を採択した。
国際社会における中国の孤立は明白となり、当初は中国専門家らが「出来るわけがない」と分析してきた対中包囲網が、現実のものとして固まる形となった。習の対日包囲網と日米分断は失敗に終わったのだ。こうした一連の外交上の主導権争いからみれば、中国の南沙諸島からの石油掘削施設撤収の理由は明白である。習近平はこれ以上の孤立化は避けなければならないのだ。このままでは8月10日のASEAN地域フォーラムでは、中国批判の合唱が生じかねない。最も懸念するのは11月に北京で開かれるAPECでの孤立である。APECは習が就任以来最初に主催する大型国際会議であり、中国の力の入れ方は並大抵ではない。政府は北京市にオリンピック並みの整備を命じている。しかし、APECが終われば、習はまた元の対日強硬姿勢に戻りかねない。南シナ海に関しても国務委員・楊潔チは、こともあろうにベトナムで「西沙諸島は中国固有の領土であり、中国は主権と海洋権益を維持するために必要な措置を講じていく」と明言している。掘削の結果石油と天然ガスの存在が確認されたのであり、ころを見計らって本格掘削に出る可能性は高い。こうした中国の戦略を計算に入れた上で、安倍はAPECを機会に日中首脳会談を実現させる意向であろう。一時的なものであるにせよ、中国の軟化を「対話ゼロ」からの離脱に利用しない手はない。
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