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2014-07-03 18:05
7月1日の安倍首相の記者会見について思う
尾形 宣夫
ジャーナリスト
7月1日の臨時閣議後の安倍首相の記者会見について、感想を述べたい。首相は冒頭で集団的自衛権行使がいかに重要であるかを身振り、手振りを交えて数分にわたって持論を披瀝したが、その後の記者との質疑は、質問と首相の答えがかみ合わず、歴代政権の憲法解釈を覆す、日本の針路を180度変えかねない、とてつもなく重要な閣議決定後の記者会見にしては、あまりにも中身の乏しい、むなしい会見だった。首相は「外国を守るために日本が戦争に巻き込まれるのではないかという批判は、誤解だ」とかわし、憲法が許すのは「我が国の存立を全うし国民を守るための自衛の措置だけだ。外国の防衛を目的とする武力行使は今後とも行わない」と断言した。立て板に水のように能弁な首相の話を聞いていた多くの人たちは頭が混乱したのではないか。「あれもできない」「これもしない」ようでは、「集団的自衛権とは一体なになのか」「憲法で認められている個別的自衛権とどこが違うのか」と疑問がわいたはずだ。様々な「適用除外」項目を付けて、本来の集団的自衛権行使はできるのか、という疑問が当然出てくる。首相は、武力行使はしないが、「万全の備え」をすることが、日本に戦争を仕掛けようとするたくらみをくじく「抑止力」となり、「戦争に巻き込まれる恐れが一層なくなっていく」と強調した。つまり、「万が一」に備えることが、抑止力を強め、戦争を回避する最善の策だというわけだ。
首相の冒頭発言のポイントは以上のようだが、問題は会見での記者とのやり取りだ。質問したのは5人。質問を要約すると、(1)閣議決定した「武力行使の3要件」のあいまいさ(北海道新聞記者=幹事社)、(2)国防政策は転換するが、今後のビジョン(AP通信)、(3)自衛権行使のための法改正のスケジュール(毎日新聞)、(4)集団的自衛権に取り組もうとしたきっかけ(日本テレビ)などである。(5)もう1人は幹事社のフジテレビ記者だが、質問は同日北京で行われた日朝協議関連だった。首相の答えは、(1)については、閣議決定の目的を改めて語り、法整備によって「あらゆる事態に対する隙間のない対応」が可能となるとかわした。(2)については、「危険な任務に就いている自衛隊に感謝し、今後とも彼らは日本国民を守るために活動すると確信する」とした。(3)については、「法整備は既にスタートしているが、与党と緊密な連携をするが、今の段階で『いつまで』と言う状況ではない」と述べるにとどまった。(4)については、首相は小泉政権の官房副長官として有事法制や国民保護法の制定に当たった経験を踏まえ、「戦後60年たつ中で、日本の独立、国民の命を守る法制に不備があるという現実に向き合った」と述べた。結局首相の答えからは、武力行使の条件となる「新3要件」の中で「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」の「明白な危険」は具体的に語られることはなかった。
見てのとおり、4人の記者の質問と首相の答えがかみ合わなかったことははっきりしている。首相は持論を滑らかに語ったが、質問の機微に触れることには側近が用意したペーパーを読み上げただけであった。唖然としたのは、残り1人フジテレビの質問だ。会見場はもとより、テレビを見ていた多くの視聴者も、この記者が「日朝協議」を持ち出したことには、驚いたのではないか。私などは、わが耳を疑いメモを取る手を止めたほどだ。北朝鮮による日本人拉致問題が大きな節目にきていることは分かる。しかし、である。局長級協議は、今後の北朝鮮の出方をうかがう意味はあっても、今緊急にハイレベルの政治判断が迫っているわけではない。首相の反応を探る意味はあっても、この日の会見で問う問題ではない。通常、首相会見は記者クラブの幹事社が各社と調整し、最大公約数的な質問を幹事社が切り出し、その後、各社が時間内に自由に質問する形式をとる。安倍首相会見への最初の質問は、幹事社の北海道新聞社だ。2番手が同じ幹事社のフジテレビである。30分程度とごく限られた今回の会見で、日朝協議がクラブのどうしても聞きたかった案件だったとは、考えられない。もし各社が幹事社にこの質問を求めたというのであれば、内閣記者会の問題意識のなさには唖然とせざるを得ない。
案の定、首相は「報告をよく聞いた後、見極める。いま答えることは適当でない」とかわした。新聞各社の7月2日朝刊の見出しは最近にないほどの大見出しで1面を飾り、総合、政治、社会各面でも、様々な視点から各社各様の分析、評論を詰め込んだ。しかし、フジテレビ記者が質問したことを取り上げた記事やテレビニュースは、私が知る限り皆無だった。記者会見のインパクトのなさと、フジテレビ記者の場違いな、ニュースの何たるかをわきまえない質問に表れた、政治の独りよがりと一部記者の不勉強ぶりが、マスコミ界に広がっている。記者出身の私としては、思いたくもないことだが、それが現実だ。記者たるものは、自分の立ち位置を、自らに謙虚に問うべきではないか。
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