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2014-02-19 17:18
ますます宗派主義が進むイラク
川上 高司
拓殖大学教授
イラクでは、シーア派の指導者であるムクタダ・アル・サドル師が政界から引退すると発表した。サドル師が率いるサドル派は議会では325議席中40議席を持ち閣僚も送り込んでいる。今回サドル師が引退を表明したのは、イラク政府の汚職と宗派主義に嫌気がさしたからである。政府関係者は高い給料と年金が保証される一方で、クルド人自治区以外では水も電力もままならないという厳しい状況にある。加えてスンニ派を冷遇し宗派の溝を深めイラクを分裂の危機にさらしているというのがその理由だ。サドル師の引退表明はイラクをますます混乱させることは間違いない。
サドル師は何よりもイラクシーア派の中では信望が厚い指導者なのである。スンニ派フセイン時代には反フセインを掲げて抵抗した父親が暗殺され、その後を継いで政権に冷遇されていたシーア派を支えた。主だったシーア派の指導者は亡命したが彼はイラクにとどまって多くの人々と苦楽をともにしたのである。彼は2003年米軍が侵攻してくると米軍の占領に反対、武装部門であるマハディ軍は米軍と熾烈な闘争を行ったためサドル師は反米の象徴として米軍から狙われるようになった。
実はサドル師は米軍が侵攻したとき、シーア派とスンニ派の違いを超えて団結したかったようで、スンニ派との宥和を目指し米国と協力して新しいイラクを作ろうと考えていた。だが、アメリカ側はサドル師を敵視しあたかも冷酷な過激派リーダ-のように捉えてサドル師の協力の申し出を断った。失望したサドル師は一転して反米闘争を始めたといういきさつがある。歴史に「もし」は禁句であろうが、もしアメリカがサドル師と協力していればイラクはもっと違った状況になっていたかもしれない。
折しも西部ではISISが勢力を増し、宗派闘争が激化している。イラクの未来は暗いとサドル師が悲観するゆえんである。それでもあきらめず、自らが引退表明をしてイラクの人々の目を覚まさせようと考えている。ひとつのイラクを目指してサドル師の闘いは続く。
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