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2014-01-10 06:53
「好循環国会」より「安保国会」となる様相が濃い
杉浦 正章
政治評論家
首相・安倍晋三が1月24日招集の通常国会を「好循環実現国会」と銘打って経済重視の姿勢を示したが、その実態はどうなるだろうか。どうも60年安保の時に匹敵する「安保国会」の色彩が濃くなりそうな気がする。安倍は秋の臨時国会を「成長戦略実行国会」と位置づけたが、その実は特定秘密保持法案に全精力を傾注した。これと同様に、極東情勢は安保論争を避けて通れないほど緊迫感を強めている。野党は靖国参拝を始め、集団的自衛権、安倍の外交姿勢などに焦点を当てて追及しようとしている。安倍は予算成立後に集団的自衛権行使への解釈変更の閣議決定に踏み切るものとみられ、とりわけ後半国会は激しい論争が展開されそうだ。秘密保護法をめぐる対応が支持率の急落に影響したことに懲りてか、安倍や幹事長・石破茂らは羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹くような慎重発言を繰り返している。これを見て、NHKなどに「軌道修正」というような浅薄な論説が生じているが、なかなかどうして安倍はそう簡単に方向転換などする男ではあるまい。補正予算案や来年度予算案の早期成立を確実にしなければならないから鎧(よろい)の上に衣をかぶっているだけで、成立後はその衣を脱ぎ捨てるのだ。現に安倍は8日のテレビで「安保法制懇に結論を出していただいて、法制局を中心に政府としての解釈の判断をする」と明言している。
法制墾は既に従来の「集団的自衛権は保有するが、憲法上行使できない」という解釈を「行使できる」に変える方向を固めており、内実はいつでも打ち出せる準備が完了しているのだ。予算審議や政局への影響を考えて時期を見ているだけであり、4月には答申を出す可能性が強い。集団的自衛権は対米公約でもあり、日米防衛協力のための指針( ガイドライン)の再改定を年末に断行するためにも不可欠の要因となっている。解釈変更に当たっては、公明党や中国、韓国など周辺国の反対にどう対処するかが焦点となる。公明党代表・山口那津男は新年早々から解釈反対の牽制球を投げている。「地球の裏側まで米国について行って戦争する」という「地球の裏側論」で反対しているのだ。政府・与党はこの「裏側論」を軽視すると、秘密保護法で朝日が「風評」を垂れ流しにして妨害したケースと同じになりかねないと警戒している。そこで公明党対策は“けん制”と“説得”の両面から取りかかる方針だ。まず“説得”材料で最近出てきている流れは「憲法解釈と政策判断の分離」である。期せずして安倍と石破が同様のことを言っているから、政府・与党で統一した戦術なのであろう。安倍は「集団的自衛権の行使が認められたから、行使しなければならないと思っている人が多い。しかし集団的自衛権は権利であって、使うか使わないかは政策判断だ」と述べている。石破も「地球の裏側まで行って戦争することではない。行使できると行使するは異なる。何が何でも行使するわけではない」としている。
つまり、憲法解釈は変更するが、実行については“歯止め”をかけるというものだ。この方針を変更の閣議決定と同時に打ち出すことで、公明党を納得させようとしているのだ。公明党がこれに応じるかどうかだが、石破は「公明党さんとは有事法制やインド洋の給油支援活動、自衛隊のイラク派遣などでかんかんがくがくの議論をしてきたが、最後には認めてもらった」と述べている。結局“落ちる”とみているのだ。しかし、それでも応じなかったらどうするかだが、ここで“けん制”が出てくる。安倍は年末、かねてからじっこんの維新共同代表・橋下徹と3時間以上にわたって会談している。これに先立ってみんなの党代表・渡辺喜美とも会食している。以来渡辺は「自民党渡辺派」と称して、政権にべったり寄り添う姿勢だ。渡辺は「自公で連立の組み替えが出来るかどうかは分からないが、そのときはみんなの党は集団的自衛権についてこう考えるという答えを出す」と露骨な発言するに至っている。渡辺は公明党に取って代わって連立を組みたくてしょうがないのだ。一方で、中韓からの解釈反対論は最近とみに勢いを増している。中国外務省の副報道局長・洪磊は「わざと大げさに争いをつくり出し、軍拡や戦略変更の口実にするべきではない」と反対。韓国に至っては国会決議で、日本の集団的自衛権の行使容認に向けた議論に「深刻な懸念」を表明し、「韓国政府の同意なしに朝鮮半島で集団的自衛権を行使しないことを明確にするべきだ」と強調している。
しかし中韓とも国連の加盟国であるどころか、中国は常任理事国であり、韓国は事務総長を出している。その両国が国連憲章の核心部分であり、どの国も認めている集団的自衛権行使の権利を自ら否定するとは、問題を理解していないか、知識が足りないか、と言うことになる。とくに韓国は集団的自衛権があるから米韓同盟がなり立っていることを、理解していない。両国とも日本にだけ「ノー」と言えば国際常識を疑われる論理破たんになるのだ。マスコミも秘密保護法の仇討ちとばかりに朝日、毎日、東京を中心に攻撃材料とすることは火を見るより明らかだ。しかし、総じて反対論は、日本の安全保障が天から降ってくるというノーテンキなものが多く、極東における一触即発の現実を棚上げにしている。安倍は北朝鮮を名指しで「北のミサイルがグアムに向かっているときどうする。グアムには2万人の米国人が居る。これを打ち落とす能力があるのに無視すれば、同盟が持たない」と述べているが、そのような事態を日本が看過すれば、たしかに同盟関係は維持できまい。ただ政府・与党は通常国会で解釈変更と連動した自衛隊法の抜本改正など法整備まで行う姿勢はない。日程的にも無理があり、秋の臨時国会に持ち越されるだろう。
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