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2013-12-27 07:01
安倍の靖国参拝で日本外交は孤立する
杉浦 正章
政治評論家
まさに「戦後レジームからの脱却」を行動によって現す結果となった。首相・安倍晋三の靖国参拝は中国と韓国を激怒させ、ガラス細工のような極東の平和と安定を何とか維持しようとする米国の意図をも粉砕した。安倍は一体何を考えているのだろうか。マスコミや学者の分析では、群盲象を撫でるが如き見方しか出ていないが、安倍のその発言から見えてくるものは、冷徹な政治家としての姿勢でなく、個人的な信条を優先させる「靖国教徒」としての姿でしかない。まさか首相たるものが「ネット右翼」だけを喜ばそうとしているとは思いたくないが、そう思えてくるような振る舞いだ。一番の危機は首相官邸にこの安倍の「独走」を止める力量のある側近がいないことであろう。安倍の行動は確信犯的であった。周辺によると、既に10月の段階で秋季例大祭に参拝しようとしていたが、伊豆大島の台風災害で断念している。その辺の事情を説明して首相側近の自民党総裁特別補佐官・萩生田光一は10月20日の民放番組で「今のまま中国や韓国と会談すると、『参拝しない』との前提を付けられた会談になる。それを首相は考えていない」と指摘。「就任1年の中でその姿勢を示されると思う」と、1周年を機会に参拝する決意を固めていることを明らかにしている。つまり、安倍は、靖国に参拝しないことを中韓との首脳会談の前提条件にされることを回避するためにも、参拝する必要があると考えていたことになる。
しかし、この判断は大局を見失っている。なぜなら中国と韓国に絶好の対日批判の材料を与えてしまったからだ。その批判の激しさは、小泉純一郎の参拝の時とは比べものにならない。今回はそれだけではない。小泉の時は日本の内政問題としてきた米国までが「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに、米国政府は失望している」と、これまでにない深い憂慮の声明を発する結果を招いた。日本の最重要の同盟国までが異例の批判をしたのである。まさに極東における日本の「靖国孤立」を招いてしまったのだ。米国は、安部が就任して以来、その「戦後レジュームからの脱却」発言とこれに連動した安倍の靖国参拝実行が持つ危険性を懸念材料としてきた。その理由は、安倍の姿勢がサンフランシスコ講和条約体制に対する挑戦になり得るからである。つまり米国にしてみれば、A級戦犯を処刑した東京裁判を受諾した1952年の講和条約でスタートさせた「戦後レジーム」から日本だけが“脱却”して、歴史の修正という独自の右傾化路線を進まれては、極東の平和と安定にとって支障となるという判断なのである。
この危険を察知した米国はあの手この手で安倍の靖国参拝をけん制してきた。一番の象徴が10月の国務長官・ケリーと国防長官・ヘーゲルによる異例の千鳥ヶ淵戦没者墓園の参拝である。明らかに米国の立場を行動で示したのだ。それにもかかわらず、「靖国教徒」のごとき安倍の行動となった。米国の「失望」はまさに本物と言える。中国がこのチャンスを見逃すわけがない。中国は米中二大国による太平洋支配を唱えており、その根源は第2次大戦戦勝国による対日押さえ込みにある。防空識別圏の設定で米国を怒らせたが、安倍の靖国参拝を今後“活用”して、日米分断のとっかかりにするだろう。同様に大喜びしているのが韓国大統領・朴槿恵だ。韓国では、低迷する経済に打つ手を知らない朴の支持率が低下し、朴にとって残された道は「反日カード」しかない状況となっていた。そこに安倍の靖国参拝である。これは願ってもない好機の到来であろう。
こうした事態を安倍は予知していたのだろうか。安倍は明らかにこの外交的大損失には考えが及ばなかったのであろう。安倍は靖国を参拝した歴代首相の名前を弁明のように列挙したが、極東情勢の危機的状況は当時の比ではない。昔田中角栄が「首相の座は1年たつと、キツネが憑(つ)いて、自分が逆さまに座っていても気付かない」と述べていたが、その“キツネ憑き”の気配が安倍の靖国参拝から感じられる。首相動静を見れば分かるが、日本の首相ほどの激務はないといってもよい。とくに田中や安倍のように職務に専念しすぎると、一時的に思考力が混迷して判断力が落ち、とんでもない決断をしてしまう危険を帯びるのだ。1年が経過して暫くすると落ち着くというのだが、まさに一年目の危機に、あらぬ方向への「独走」となって現れた。特定秘密法の成立という大事業を成し遂げた安倍は、今後は経済に専念する方針を表明していたが、その政治手法はどうも順調なるアベノミクスを土台にして、ドラスティックな「信条」を優先処理させる傾向が出てきている。
衆参選挙で圧勝して、経済で順調な安倍を降ろそうとするような空気は、民主党の政調会長・桜井充が「一日も早く安倍政権を打倒しなければならない」と語っているだけだ。これは冬の蚊が飛んでいるようなもので勢いなど全くない。しかし、高転びに転ぶ危険性は常に存在することが、靖国参拝で分かった。大きなリスクを伴う行動を独断でしてしまうのだ。問題は冒頭述べたように官邸に安倍にストップをかける者がいないことだ。官房長官・菅義偉が思いとどまるように説得したと言うが、こういう時は両手を広げていさめなければ止まるものではない。安倍の人事の傾向をみると「殿ご乱心」に直言するような人材は回りに置かない。自民党幹事長・石破茂にしても、安倍から参拝を事前に聞いて、その危険性はすぐに気付いたはずだが、これを止めなかった。安倍が弱れば次はチャンスと考えれば、直言などしない。こうして安倍は裸の王様となりつつある。
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