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2013-11-29 06:09
都議会は猪瀬の進退かけた正念場となる
杉浦 正章
政治評論家
都知事・猪瀬直樹をめぐる疑惑は複雑に考える必要は無い。すべてが、都知事選立候補直前に金を受け取り、返したのが強制捜査の後という点に絞られる。誰が見ても「政治資金としての授受」であり、本人が繰り返す「個人としての借用」の説明はなり立ちにくい。きょう(11月29日)から始まる都議会の焦点は、この一点に絞られる。筆者の親しい捜査当局元首脳は「限りなくクロに近い」と予想する。神奈川県知事・黒岩祐治も、同じ知事としての立場から、「突然出てきた借用証に多くの人は疑念を持っている。今の説明では大変厳しいと見ている」と予測する。「厳しい」というのは、もちろん知事としての職の継続の意味だ。玄人だけでなく、一般都民の判断も「疑惑あり」が圧倒的だ。都によると、27日までに電話やメールなどで計717件の意見が届き、その約9割が猪瀬を批判しており、支持・激励は約1割にとどまるという。裏切られた都民としては、当然だろう。4回行われた記者会見をつぶさに分析すれば、猪瀬の発言は2転3転している。一番怪しく感じたのが、得々と借用書を振りかざして「政治資金でなく、借金であった」と繰り返した4回目の会見だ。
借用書は徳田事務所から郵送してもらったと強調したが、貸した側の署名はなく、本人の捺印もない。無利子、無担保はいかにも不自然である。郵送されたなら、封筒があるはずだが、それも示さない。借用書は公証人が作成する公文書の公正証書とは異なり、立会人がいなくても作れる。後から作ったのではないかという質問が記者団から集中砲火のように浴びせられたのも当然である。それより筆者が奇異に感じたのは、徳田毅の議員会館自室で昨年11月20日に行われた現金引き渡しに関する猪瀬の説明だ。猪瀬は「5千万円などという大金を見たことがないので、その大きさにびっくりした」と述べた。しかし猪瀬はその金を紙袋から「カバンにしまって持ち帰った」とのべた。5千万円をカバン入れるとすれば知事が持ち歩くような書類カバンではあるまい。相当大きなカバンであり、これは事前に用意しなければなるまい。それを用意して持っていったとすれば、背後には事前に金額まで含めたやりとりがあったはずであり、「びっくりした」というのはまずうそであろう。
また11月22日の最初の会見で、「資金提供という形で応援してもらうことになった」と選挙目的であったことをいったん認め、政治資金規正法違反の指摘を受けると、2回目の会見で一転して「個人の借用」と繰り返した。これは政治資金に詳しい弁護士が慌てて入れ知恵したからに違いない。そして今後の捜査で決定的な証拠になり得るのが、昨年11月19日の徳田虎雄と二男・徳田毅との電話のやりとりである。虎雄は病気で声が出ないため、かかってきた電話はスピーカーで聞き、秘書が目の動きを文字にして返事をするというやりとりをしている。23日付産経によると、このやりとりが来客などにまる聞こえだったというのだ。虎雄は「先方に取りに来させろ」「足がつかないようにしろ」と述べ、金額など細かい指示をした。そして最重要ポイントは、毅が「猪瀬さんは金は残ったら返すと言っている」と伝えた点だ。明らかに選挙資金が余ったら返すということであり、「個人的な借入金」だったとする猪瀬の説明は根底から覆る。このやりとりは東京地検の家宅捜索でも入手しているといわれる。なぜなら虎雄の発言は、いったんパソコンで清書して虎雄が目を通すことになっており、そのパソコンも押収されたとみられるからだ。
資金の提供を持ちかけたのはどっちか、が焦点になっており、猪瀬は自分からの要請を否定している。しかし、これも疑惑の対象となる。自分から持ちかけたのでなければ、なぜ昨年11月6日という選挙の準備で多忙な日にわざわざ鎌倉の病院まで出かけて、全く面識のない虎雄に会ったかということだ。第三者が介しているにせよ、大金を授受する以上、虎雄に何らかの挨拶をしないわけにはいくまい。その結果都知事選立候補前日の11月20日に毅から5000万円を受け取ったのであろう。地検が押収したパソコンからは、当然虎雄と猪瀬のやりとりも分かる可能性がある。地検はその解析に専念しているに違いない。こうして、限りなくクロに近い猪瀬の姿が浮かび上がってくることになる。当面の焦点は、都議会だ。まずきょう(29日)の所信表明演説で猪瀬が何と言うかだ。これを受けて都議会は、来月5日に代表質問、6日に一般質問を行う。各政党は猪瀬を助けるどころか、虎視眈々とその進退を狙っている。もちろん答弁の矛盾を暴いて、知事を辞任へと追い込むことを視野に入れているのだ。都議会は、猪瀬にとって敵ばかりの様相なのだ。問題は、東京都がオリンピックの会場となり、世界の注目の的となっていることだ。先に指摘したように、猪瀬は道徳的にもオリンピック憲章に背馳することは確実であり、辞任に追い込まれるより以前に、潔く自ら辞任すべきであることは言うまでもない。
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